別に、気を失った訳ではない。

いきなり、目の前の景色が消えてなくなった。

「あ…?」

何だよ、これは。

どうなってんだ。

すると、そこに。

見覚えのある白い制服を着た人物が現れた。

「よいしょっ…と」

「…」

「…こんばんは。…ルレイアさん」

「…きっしょ…」

俺は、思わずそう呟いた。

目の前にいたのは、俺だった。

自分と全く同じ顔の人物が、目の前にいる。

しかも、帝国騎士団の制服を着て。

なんと気持ち悪い。

ドッペルゲンガーかよ。

「あなた…」

…顔は一緒だけど、この人は俺じゃない。

帝国騎士団の制服を着ているということは。

…光の方で生きてる、俺か。

「自分自身の顔を見ることになるとは…。気持ち悪いですねぇ」

「まぁ、そう言わないでくださいよ。大丈夫、俺も結構気持ち悪いんで」

そりゃそうでしょ。元は同一人物なんだから。

「あなたにしてみれば、俺は闇に逃げた臆病者なんでしょうね」

光の方で生きることを諦め。

誘われるままに、外道に堕ちた落伍者…。

「…そんなことはありませんよ。あなたの生き方は、俺にとっては眩しい。それに…根本は何も変わってない。紙一重の違いしかありませんよ、俺とあなたは」

「あ゙ぁ…?」

「怒りの沸点が低いところも一緒ですし」

知るかよ。

「…それなのに、俺よりちょっと格好良いのが羨ましいと言うか」

嫉妬かよ。

「とにかく…。あなたはそちら側を選んだ。だからもう、闇に苦しむ必要はない。その闇も、記憶も、俺が消し去ってあげます」

「…何で、あなたがそんなことを?」

「さぁ、何ででしょう…。俺から、もう一人の俺に…プレゼントです。俺が生きられなかった人生を、あなたが生きてください。俺とあなたは、どうやっても…同じ人間なんですから」

…なんともまぁ。

実に英雄的思考じゃないか。

こんな人間と自分が同じとは…ファンタジーにしても、出来過ぎだな。

「…光でも闇でも良い。あなたの物語が、幸せなものになるように…。ちょっとだけ、お邪魔させてくださいね」

悪戯っぽく笑って、彼は霧のように消えてしまった。