The previous night of the world revolution4~I.D.~

「…ルルシー」

「…」

「…大丈夫ですか?」

帰り道、俺は敢えて沈黙を破り、ルルシーにそう尋ねた。

「…あの子な、あれだけ金やっても…。無駄だよ。きっとまた同じことをする…。結局貧民街なんてものがなくならない限り、ああいう人間は後を絶たないんだ」

ルルシーは、大丈夫かどうかは答えなかった。

彼の頭の中にあるのは、先程の少女のこと。

そして、俺達を襲ったゴロツキたちのことだ。

「…でしょうね」

俺だって、あんなはした金で彼女の人生を救えるなどとは思っていない。

あんなものは一時的な救済でしかなく、渡したお金が尽きれば、彼女はまた身体を売りながら生きていくことになる。

そしてそういう仕事は、様々なリスクを伴う。

いつ殺されてもおかしくない。変な病気を移されてもおかしくない。

それどころか、渡したお金を他の人間に狙われて、逆にあの金のせいで、あの子を殺してしまいかねない。

それは分かってる。

分かってはいるけど…。

…ああいう子達を助けるのは、俺達の仕事ではない。

それは帝国騎士団の仕事だ。

俺達の仕事は、ああいう弱者から搾り取ること。

所詮俺達は、闇の側の人間だ。

「…大丈夫ですか、ルルシー」

俺は改めて、そう聞いた。

故郷巡りなんて、しなければ良かったかもしれない。

それじゃ、ルルシーを余計に傷つけただけ…。

「…大丈夫だよ、ルレイア」

「…本当に?」

「本当に。ルレイアがいてくれたからな」

…あら。嬉しいことを言ってくれる。

「これで悪夢、終わりますかね?」

「さぁ…。少なくとも、納得は出来た。自分の過去と向き合って」

過去と…向き合う…か。

なんか格好良いこと言ってるようで、本当に意味のある行為だったのかは分からない。

過去と向き合おうが逃げようが、要するに自分が過去と折り合いをつけられるか、だからな。

これで悪夢が終われば良いが…。

「ルレイアこそ、これで悪夢は終わりそうか?」

「どうでしょうねぇ…。終わってくれたら良いですけど…」

なんかまた余計リアルな夢を見てしまいそうな気がするな。

でも。

「でもルルシーが一緒なので、大丈夫です」

「…そうか。同感だよ」

見るべきものは見た。

向き合うべきものとは向き合った。

それでも悪夢を見てしまうのなら、それはもうどうしようもない。

「…俺の地獄に、ルルシーがいてくれて良かった」