The previous night of the world revolution4~I.D.~

しばし、貧民街を歩いてから。

「…帰るか、そろそろ」

「…もう良いんですか?」

「あぁ。もう満足だ」

…それなら良いけど。

長くいて、またさっきみたいなゴロツキの皆さんに襲われても嫌だし…。

「じゃあ、帰り…」

ましょうか、と言おうとした、そのとき。

十歳前後くらいの薄汚い格好をした少女が、俺の服の裾を引っ張った。

…あ?

追い剥ぎかと思ったが、しかし。

「…何か?お嬢さん」

「…私を買ってください」

…ほう。

ルルシーが、露骨に顔をしかめた。

成程。まだ…そういうことをやって生きている子が、ここにはいるってことだ。

俺達の格好を見て、こいつらは金回りが良さそうだと判断したらしい。

まだあどけなさを残す目で、こちらを見上げる少女に、俺は腰を曲げて視線を合わせた。

「こんにちは、お嬢さん。個人的にはあなたと遊んであげても良いんですが、俺はロリコンではないので、あなたとは無理ですねぇ」

いくらなんでも、十歳前後じゃ幼過ぎる。

まぁ、この場所では、その歳で身体を売って稼ぐのは、珍しいことではないのかもしれない。

かつてルルシーがそうだったように。

「俺と遊びたいなら、あと十年くらいたって、あなたが美人に育った頃に遊びましょう。これは前渡しですよ」

そう言って、俺は彼女の手に、持っている限りの現金を渡した。

「…!こんなに…?」

「精々美人に育ってくださいね。俺のハーレム会員に入れるように」

「あ…ありがとうございます」

恐らく生まれて初めて見る札束の厚さに、少女は狼狽えながらも、頭を下げた。

「…さぁルルシー、戻りましょう」

「…あぁ」

間違いなく、ルルシーは少女と過去の自分を重ねてしまったに違いない。

傷ついていなければ良いが…。