The previous night of the world revolution4~I.D.~

「本職」の殺気がどういうものか、ようやく理解したらしく。

彼らは一瞬で青ざめて、一歩、二歩、と後退り。

蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。

おーおー、逃げ足だけは速いって奴だな。

「いやぁ、初々しくって良いですね~」

「大人げない奴だよ、お前は…」

え。ちょっとルルシー。何それ。

俺ほど大人げに満ちた大人はいないよ。

大体マフィアに喧嘩を売るのが悪いんだよ。

「ところでルルシー、ルルシーが暮らしてたのはどの辺です?」

「さぁ…。色々転々としてたから、特に決めてた訳じゃないんだが…」

確かルルシーは、この貧民街で色々と…後ろ暗いことをしてたんだったな。

思い出したくない思い出だろうが…。

「…懐かしいな…」

ルルシーはぽつりとそう言って、汚い路地裏を歩いていった。

俺はその後ろをついていった。

ここがルルシーの過ごした場所なのだと思うと、親近感が沸くと言うか…。

「良い思い出なんかないけど…。でも、嫌でも思い出すもんだな」

「…」

「…改めて自分が、汚いことやって生き延びたんだと再確認したよ」

「…それはあなたのせいじゃありませんよ」

汚いことやって生き延びた?

それの何が悪い。汚かろうが醜かろうが、死んだらそれで終わりなんだ。

「汚いことしてでも、ルルシーが生きててくれたから、俺は今生きてるんですよ」

ルルシーがあのとき俺を助けてくれていなかったら。

今の俺はいなかった。

生きてさえいなかったんじゃないか。

「そうか…。生きてる価値なんてない、ろくでもない人間だと思ってたが…。お前を助けられたなら、生きてて良かったのかもな」

「…そうですよ。あなた、俺がそんなこと言ったら超怒るでしょうに。自分は言うんですね」

「そりゃお前が言ったら怒るに決まってるだろうが」

理不尽。

「じゃああなたが言っても俺が怒りますよ。もう言わないでください」

「…分かったよ。悪かった」

俺達のせいで失われた命があるのは確かだが。

俺達のお陰で助かった命があるのも事実。

そしてルルシーのお陰で俺が救われたのも、紛れもない事実なのだ。