The previous night of the world revolution4~I.D.~

孤児院の中は、外観と同じくボロボロになっていた。

雨漏りしているらしく、廊下に水溜まりまで出来て、黒く濁っている。

天井の隅には巨大なクモの巣が張っているし、酷く埃っぽい。

歩く度に、廊下がみしみし鳴っている。

わー。お化け屋敷。

「気を付けろよルレイア」

「ルルシーこそ」

床踏み抜いて落ちたら、さすがに痛いじゃ済まなそうだ。

「…」

俺はきょろきょろと辺りを見渡した。

もうすっかり荒廃してしまっているが、ここがかつて人の居住地だったという、その片鱗はあちこちに見られた。

床に転がっている、ボロボロに朽ちたぬいぐるみ。

子供用のものだと思われる、朽ちた小さなTシャツ。

何年も前のお菓子の空き袋も転がっていた。

成程、確かに孤児院だ。

ルルシーはここで…ここに暮らしてたんだなぁ。

決して、良い思い出なんてないのだろうけど…。

「…ここ…」

「はい?」

ルルシーが、廊下の突き当たりの部屋の前で、足を止めた。

「…前に話したろ?俺が…孤児院の先生を殺した場所だ」

「…そうですか。…入ります?」

「…入るよ」

ルルシーは、その部屋の扉を開けようと、取っ手を掴んだ。

しかし。

押しても引いても、扉は開かなかった。

「…?鍵か…?」

「いえ…これ、単にもう建て付けが悪くなってるのかもしれません」

「そういうことか…」

何年も放置されていた後遺症だろう。

折角ここまで来たのに、部屋が開かないとは…。

「外に出て、窓から入るしか…」

「…大丈夫ですルルシー、ちょっと下がってください」

「え?」

ここは、俺がお上品に…かつ優しく丁寧に、扉を開けるとしよう。

「…はぁっ!」

俺は、行く手を阻もうと立ち塞がる扉に向かって、渾身の回し蹴りを食らわせた。

くの字にひしゃげたドアが、室内にばびゅーん、と吹っ飛んで、壁にぶつかって落ちた。

「はい、ルルシー開きましたよ」

「…誰がドアを吹っ飛ばせと言った」

「毎度お馴染みルレイア流ノックじゃないですか」

「ノックじゃねぇ蹴り飛ばしてるんだろ。ただでさえ崩れそうな家なのに、安易に衝撃を与えるんじゃねぇ」

これで柱が倒れてぺちゃんこになりました、はさすがに笑えないもんね。

幸い、柱がみちみちと音を立てただけで、崩落は免れた。

良かった。