The previous night of the world revolution4~I.D.~

ルルシーの故郷は、郊外にある貧民街であった。

生まれてこの方、帝都のど真ん中で暮らしていた俺にとっては、未知の領域である。

…感覚的には、箱庭帝国を歩いている感じに近いな。

「驚いたか?俺がこんなところの生まれだって知って」

帝都の一等地育ちの俺に、ルルシーは自嘲気味にそう言った。

「いえ…」

貧民街と言ったら、まぁこんなものだろう。

アイズレンシアの生まれた最下層のスラム街と比べれば、秩序は保たれているように思う。

少なくとも、都会者への洗礼とばかりに、引ったくりやスリに遭ってないだけマシ。

まぁそんなことされたら、十倍返しにしてやるが。

それにこういう街は、マフィアにとっては商売の場でもあるのだ。

弱者から巻き上げるのは、最も簡単な金儲けだからな。

「…これでも結構マシになってるんだぞ。昔はもっと酷かった」

「…そうですか」

ルルシーがどんな環境で育ったのか…大体想像がつくというものだ。

とは言っても、ルルシーがここにいたのは生まれてから数年だったはずだが。

その後は、確か孤児院に行ったんだよな。

「それで、ルルシーの生まれた家は?残ってるんですか?」

「さぁ、行ってみないと分からないな…」

家と言うか…アパートだっけ?

ルルシーの後ろを子鴨のようについていくと、やがて廃材と雑草まみれの空き地に辿り着いた。

何年も手入れされていなかったらしく、雑草は俺達の腰に届くくらい伸び放題で、捨てられた廃材も朽ちている。

ここは…。

「…ルルシー、もしかして」

「…あぁ、ここだな…。俺が生まれたアパート」

…アパートなんて、見る影もないが。

成程、かつてはここにあったという訳か。

つまりこの空き地が、ルルシーの実家。

「物の見事に取り壊されてますね」

「あぁ…。いつの間に壊されたんだか。中に住んでた住人も、何処に行ったのやら」

もう二十年以上前だ。

昔ここに住んでいた住人が、まだ生きているのかどうかも怪しいな。

「そうか…。こんな空き地に。そうか…」

ルルシーは、自分に言い聞かせるように何度も呟いていた。

…俺の場合は、悪夢の原因である母校は、そう簡単に取り壊されたりしないから、こうして十年越しに訪問することも出来るが。

ルルシーの場合、そうは行かない。

かつての面影をなくした故郷に、ルルシーはどんな思いでいるのだろう。

「…ルルシー、大丈夫です?」

「あぁ、大丈夫だよ…。次に行こう」

次。

次とはつまり…ルルシーにとって、俺でいう帝国騎士官学校のような場所だ。