ルルシーの故郷は、郊外にある貧民街であった。
生まれてこの方、帝都のど真ん中で暮らしていた俺にとっては、未知の領域である。
…感覚的には、箱庭帝国を歩いている感じに近いな。
「驚いたか?俺がこんなところの生まれだって知って」
帝都の一等地育ちの俺に、ルルシーは自嘲気味にそう言った。
「いえ…」
貧民街と言ったら、まぁこんなものだろう。
アイズレンシアの生まれた最下層のスラム街と比べれば、秩序は保たれているように思う。
少なくとも、都会者への洗礼とばかりに、引ったくりやスリに遭ってないだけマシ。
まぁそんなことされたら、十倍返しにしてやるが。
それにこういう街は、マフィアにとっては商売の場でもあるのだ。
弱者から巻き上げるのは、最も簡単な金儲けだからな。
「…これでも結構マシになってるんだぞ。昔はもっと酷かった」
「…そうですか」
ルルシーがどんな環境で育ったのか…大体想像がつくというものだ。
とは言っても、ルルシーがここにいたのは生まれてから数年だったはずだが。
その後は、確か孤児院に行ったんだよな。
「それで、ルルシーの生まれた家は?残ってるんですか?」
「さぁ、行ってみないと分からないな…」
家と言うか…アパートだっけ?
ルルシーの後ろを子鴨のようについていくと、やがて廃材と雑草まみれの空き地に辿り着いた。
何年も手入れされていなかったらしく、雑草は俺達の腰に届くくらい伸び放題で、捨てられた廃材も朽ちている。
ここは…。
「…ルルシー、もしかして」
「…あぁ、ここだな…。俺が生まれたアパート」
…アパートなんて、見る影もないが。
成程、かつてはここにあったという訳か。
つまりこの空き地が、ルルシーの実家。
「物の見事に取り壊されてますね」
「あぁ…。いつの間に壊されたんだか。中に住んでた住人も、何処に行ったのやら」
もう二十年以上前だ。
昔ここに住んでいた住人が、まだ生きているのかどうかも怪しいな。
「そうか…。こんな空き地に。そうか…」
ルルシーは、自分に言い聞かせるように何度も呟いていた。
…俺の場合は、悪夢の原因である母校は、そう簡単に取り壊されたりしないから、こうして十年越しに訪問することも出来るが。
ルルシーの場合、そうは行かない。
かつての面影をなくした故郷に、ルルシーはどんな思いでいるのだろう。
「…ルルシー、大丈夫です?」
「あぁ、大丈夫だよ…。次に行こう」
次。
次とはつまり…ルルシーにとって、俺でいう帝国騎士官学校のような場所だ。
生まれてこの方、帝都のど真ん中で暮らしていた俺にとっては、未知の領域である。
…感覚的には、箱庭帝国を歩いている感じに近いな。
「驚いたか?俺がこんなところの生まれだって知って」
帝都の一等地育ちの俺に、ルルシーは自嘲気味にそう言った。
「いえ…」
貧民街と言ったら、まぁこんなものだろう。
アイズレンシアの生まれた最下層のスラム街と比べれば、秩序は保たれているように思う。
少なくとも、都会者への洗礼とばかりに、引ったくりやスリに遭ってないだけマシ。
まぁそんなことされたら、十倍返しにしてやるが。
それにこういう街は、マフィアにとっては商売の場でもあるのだ。
弱者から巻き上げるのは、最も簡単な金儲けだからな。
「…これでも結構マシになってるんだぞ。昔はもっと酷かった」
「…そうですか」
ルルシーがどんな環境で育ったのか…大体想像がつくというものだ。
とは言っても、ルルシーがここにいたのは生まれてから数年だったはずだが。
その後は、確か孤児院に行ったんだよな。
「それで、ルルシーの生まれた家は?残ってるんですか?」
「さぁ、行ってみないと分からないな…」
家と言うか…アパートだっけ?
ルルシーの後ろを子鴨のようについていくと、やがて廃材と雑草まみれの空き地に辿り着いた。
何年も手入れされていなかったらしく、雑草は俺達の腰に届くくらい伸び放題で、捨てられた廃材も朽ちている。
ここは…。
「…ルルシー、もしかして」
「…あぁ、ここだな…。俺が生まれたアパート」
…アパートなんて、見る影もないが。
成程、かつてはここにあったという訳か。
つまりこの空き地が、ルルシーの実家。
「物の見事に取り壊されてますね」
「あぁ…。いつの間に壊されたんだか。中に住んでた住人も、何処に行ったのやら」
もう二十年以上前だ。
昔ここに住んでいた住人が、まだ生きているのかどうかも怪しいな。
「そうか…。こんな空き地に。そうか…」
ルルシーは、自分に言い聞かせるように何度も呟いていた。
…俺の場合は、悪夢の原因である母校は、そう簡単に取り壊されたりしないから、こうして十年越しに訪問することも出来るが。
ルルシーの場合、そうは行かない。
かつての面影をなくした故郷に、ルルシーはどんな思いでいるのだろう。
「…ルルシー、大丈夫です?」
「あぁ、大丈夫だよ…。次に行こう」
次。
次とはつまり…ルルシーにとって、俺でいう帝国騎士官学校のような場所だ。


