The previous night of the world revolution4~I.D.~

校舎を見終わったら、次に俺が立ち向かうべきは、一つだけ。

「…ルレイア…。学生寮にも行くか?」

「…えぇ。行きますよ」

「でも…」

俺に辛いことを思い出させるのではないかと、ルルシーは心配していたが。

「ここまで来たのに、学生寮だけ逃げる訳にはいかないでしょう。行きますよ」

「…無理はするなよ。頼むから」

「分かってますって」

OBだからって、勝手に学生寮に侵入するのは怒られるかもしれないが。

別に部屋を荒らす訳でもないし、目を瞑って頂こう。

校舎から学生寮までの道のりは、そう長いものではない。

でもこの道は俺にとって、地獄に続く道だった。

卒業してからもう十年以上たっているのに、それでもこの道を歩くと、嫌でも思い出してしまう。

今夜はどんなことをされるんだろう、無事に明日を迎えれるんだろうか、というあの恐怖。

何度味わっても慣れなかった恐怖を、俺はありありと思い出した。

ルルシーが隣にいてくれなかったら、今頃卒倒していたかもしれない。

成程確かに…こんな道だったな。

向かうのは、学生寮三階にあるN室。何を隠そう、俺が暮らしていた部屋だ。

学生寮の廊下も階段も、校舎と同じくかつてと全く変わりない。

まるで学生のときに戻ったような気がするな。

あのとき感じたのと同じものを、今もまた、感じていた。

「…ルレイア、大丈夫か?」

「…えぇ」

さすがに悪いかなとは思いながらも、俺はその部屋を開けてみた。

そこはかつて、俺にとって地獄以外の何物でもなかった。

今の俺にとっては、どうなんだろうと思ったのだ。

しかし。

そこは、決して地獄などではなかった。

何の変哲もない…ただの部屋だ。

人数分のベッドと、学生机と、小さな本棚と、隅っこにゴミ箱が置かれてあるだけの…無味乾燥な部屋。

…これが、地獄?

こんな部屋が、俺にとって地獄だったというのか?

「…ルレイア…」

「…なんか…馬鹿みたいですね」

「…何?」

下らない。実に下らないよ。

「こんなものの…一体、何が怖かったんでしょうね、俺は」

馬鹿馬鹿しい。つまらない。下らない。

なぁ、怖くないだろう?こんなもの。

俺が恐れていたのは、場所ではないのだ。

場所じゃなくて、人。

ここにいた人と、そしてここで過ごした記憶。

俺を本当に苦しめていたものの正体は、それだったのだ。