The previous night of the world revolution4~I.D.~

「…フューニャ。あの…ごめん。帰るか?」

こんなに怖がってるのに、これ以上無理させたくはなかった。

しかし、フューニャは僅かに首を横に振った。

すると、華弦が。

「…これだけは言わせてもらっても良いですか?」

「…何を?」

もしかして、フューニャに恨み節をぶつけるつもりなのか、と思った。

自分は売られて辛い思いをしたのに、お前だけ自分の存在すら知らず、両親のもとで育ち…今はルティス帝国で悠々自適に暮らしている、と責めるつもりなのかと。

しかし、違っていた。

「フューシャ。いえ…今はフューニャでしたか。私は、あなたを恨んではいません。全く、これっぽっちも」

華弦は、真っ直ぐにフューニャの目を見つめていた。

フューニャと…同じ、清廉な瞳だった。

妙に、姉妹なのだなと思ってしまった。

「箱庭帝国が過酷な国であることは知っています。秘境の里が今や、滅び去ってしまったことも。私はシェルドニアに売られたからこそ、憲兵局の粛清を免れて、生き延びることが出来たんです」

それは…確かに、そうだが。

箱庭帝国で、生きるか死ぬかの生活をするのと。

シェルドニアで、奴隷として生きるのと。

どちらが良いかと聞かれたら…それは、なんとも言い難い。

「大体箱庭帝国にいても、国民は奴隷扱いなのだから…。私の境遇は、大して変わらなかったでしょう。むしろ粛清を免れただけ、幸運だったとも言えます」

…そういう考え方も出来るかもしれない。

でも…だからって。

例え奴隷扱いだったとしても、家族が傍にいるのと、いないのとでは…全く…。

「私は不幸などではありません。シェルドニアに行ったからこそ得たものもあります。奴隷だったからと言って、辛くて苦しい思い出しかなかった訳じゃない。幸せな思い出もちゃんとあります。だから、私を可哀想と思ったのなら、それはやめてください」

「…」

「あなたには分からない苦労が、私にはたくさんありました。でも箱庭帝国に残ったあなたも、私には分からない苦労がたくさんあったことでしょう。不幸自慢など下らない。私は今満ち足りています。そしてきっとあなたも…今は、幸せに、暮らしているのでしょう?」

華弦がそう尋ねると、フューニャはハッとして、そして俺の顔を見て。

「…はい」

こくり、と頷いた。