The previous night of the world revolution4~I.D.~

お義姉さんには、先にレストランで待っていてもらうことにして。

俺は、仕事終わりにフューニャを迎えに、一度家に戻った。

フューニャ、何て言うかな…。喜ぶだろうか…それとも悲しむだろうか…と、悶々しながら自宅の扉を開けると。

「お帰りなさい、ルヴィアさん」

何も知らないフューニャが、ひょこっと顔を覗かせた。

「あ、フューニャただいま…」

いつも通りてこてこと寄ってきた、その瞬間。

フューニャの天使のような顔が、一瞬にして般若のそれに変わった。

!?

フューニャはしゅばっ、とゼロ距離まで詰め寄り、持ち前の警察犬顔負けの素晴らしい嗅覚を働かせた。

「…ふっ…フューニャ?」

毎日のようにお出迎えしてもらって、毎日のように浮気チェックをされてるが。

こんなことは、今日が初めてだ。

フューニャはいつもの四割増しで、激しく鼻をひくひくさせて、俺の匂いを嗅いでいた。

な…何?

「フューニャ…?」

「…匂う」

…へ?

「匂う。匂います…。女の匂いです」

へ!?

「とうとうやってしまいましたね、ルヴィアさん…。私の目と鼻を掻い潜って浮気とは。実に良い度胸です」

「は!?ち、違うぞフューニャ。これは…」

「知ってますかルヴィアさん。配偶者の不倫は、離婚事由として認められるんですよ。私は弁護士を雇って、あなたとあなたの不倫相手に慰謝料を請求し、そして離婚を求めることが出来ます」

そ、そんな殺生な。

「しかし私はそれが出来るほど、強い女ではありません…」

「…そうなの?」

フューニャは、よよよ、と夫に浮気された可哀想な妻の顔になり。

そして、ギラリと眼光を光らせた。

「…ですから、夫を『再教育』し、二度と浮気など考えないように仕込むことにします」

「!?」

…それが出来るってさ。

…強い女なのでは?

ってか俺…今、大ピンチなのでは?

「まずは頭の中から煩悩を取り去るとしましょう。洗濯機で一時間くらい回せば、綺麗になるでしょうね」

「はぁぁ!?」

俺、洗濯されてしまう。

今度は未遂じゃない。この子は、やると言ったらマジでやる。

「ちょ、フューニャ…!違うんだよ、浮気じゃないんだ!」

「…ルヴィアさん、あなた、私が占い師だということは知ってますよね?」

「え…?勿論…」

もう、何度もフューニャが占うところを見たことがあるし。

「…それを知っていながら浮気とは、実に良い度胸です。覚悟は…出来ていますね?」

「いや、出来てない。全然出来てないです」

「宜しい。では…私はちょっと密室にこもって悪魔を呼び出してくるので、そこで正座して反省しながら待っていてください」

フューニャの目は、本気だった。

「だからっ…浮気じゃないんだよ!!」

対する俺の目は、涙目だった。