The previous night of the world revolution4~I.D.~

「…あなたがどう思っていても、華弦がお宅の嫁の姉である事実は、変わりませんからね」

「…」

「伝えるか伝えないかは、あなた次第ですけど…」

華弦の存在を、ルヴィアさん嫁に話すか。

それとも、黙っているべきか。

単に生き別れただけなら、話すべきだろう。あの地獄みたいな国で、家族は皆死んだのに自分だけ生き残ってしまった、と負い目に感じているルヴィアさん嫁に、実は姉だけでも生きていた、と教えれば。

多分、素直に…そして無邪気に喜ぶことだろう。

だが、華弦は売られたのだ。

ルヴィアさん嫁と天秤にかけられ、優秀だったルヴィアさん嫁を手元に残し、華弦だけが売り物として売られた…。

そんな姉がいたことを、知りもしなかった。

知りもせずに、自分だけ生き残って、幸せに暮らしていた…。

それを「自分が悪かった訳じゃないんだから」と、開き直って図太く考えられる女なら、それでも良し。

しかしルヴィアさん嫁は、そんな風に考えるほど図太くはないだろう。

自分のせいでもないのに、きっと自分を責めるだろう。

俺だって、そんなに彼女と交流が深い訳ではないけど…それくらいは分かる。

そして、俺が分かることを、ルヴィアさんが分からないはずはない。

だったら、いっそ黙っているべきなのか…。

「…お義姉様は、どうですか?」

ルヴィアさんは、華弦にそう尋ねた。

呼び方はお義姉様で固定なんだ。

「嫁に…フューニャに会いたいですか?」

どうだろうな。でもたった一人の妹だし。

「…私はどちらでも構いません。妹との再会を無邪気に喜べるほど、綺麗な生き方をしてきた訳ではありませんから…」

「…」

まぁね。

ついこの間まで、復讐人間だったもんね。

「それに、箱庭帝国出身とはいえ…実質私はシェルドニア人です。故郷の思い出話が出来る訳でもない…」

そもそもルヴィアさん嫁は、華弦の存在を知らない訳だからね。

姉妹が共有する記憶なんて、何もない。

ルヴィアさん嫁にしてみれば、いきなり自分に似たシェルドニア人が来て、「実は自分あなたの姉なんですよ」と言われるのと同じこと。

そりゃあ驚くだろうし、簡単には受け入れられまい。

家族は全滅したと思ってるだろうし…。

そう思うと…伝えない方が良いんじゃないだろうか、と思えてくるが…。

しかし、ルヴィアさんは。

「…分かりました。じゃあ…嫁に会ってもらえますか」

…意外なことに、会わせる方を選んだ。

「…良いんですか?」

「えぇ。隠していても…うちの嫁、俺の隠し事はすぐに勘づいちゃうので」

確かに。

そういえばそうだったな。

「だったら、隠さずに会わせた方が良い。傷つくかもしれませんけど…。それは俺が支えます」

あらルヴィアさん。素敵。

なんてイケメンなのかしら。ルルシーの次に。

「…そこまで覚悟してるのなら、止めませんよ。上手く行くと良いですね」

「ありがとうございます」

華弦にとっても、ルヴィアさん嫁にとっても。

姉妹の再会が、喜ばしいものになることを祈ろう。