The previous night of the world revolution4~I.D.~

ミレド・トレギアスは不幸な人間である。

彼は生まれたときから、父が王座をヘールシュミット家に奪われ、悔しがっているのを見ながら生きてきた。

父は今際の際で、彼に言った。

どうかお前の代で、王座を取り返してくれ、と。

シェルドニア王家は長く、ヘールシュミット家とトレギアス家の二つの家が、王位を争ってきた。

争う傍ら、両家は互いに婚姻を繰り返し、その血は入り交じって、どちらの家名を名乗っていても、流れている血は大して変わらないのではと思われるほどだった。

しかし。

血は争えなくても、人は争うことが出来る。

ヘールシュミット家とトレギアス家が、長年王位を巡って争ってきたように。

競争に破れたミレド・トレギアスの父は、息子に王冠の夢を託して亡くなった。

父の遺志を継いだミレド・トレギアスは、王位につく為に、ありとあらゆる策を使った。

彼は野心家で、策略家であった。目的の為ならどんな努力でも惜しまなかった。

そして彼の努力は実を結び、彼は父の、一族の悲願だった王座を手に入れた。

前王を始末し、自分の地位を確固たるものにする為、邪魔者のラトヴィ・ヘールシュミットを地下室に監禁するまでは良かった。

玉座を手に入れるやいなや、野心家、策略家としてのミレド・トレギアスは死んだ。

すっかり目標を失い、彼は権力と財力だけを盲信する、愚王に成り下がった。

それもそのはず。『白亜の塔』のお陰で、国民は決して王に逆らわない。

王は自分のやりたい放題出来るのだ。

『白亜の塔』の起動スイッチさえ握っていれば、彼の政権を脅かすものなど、何もない。

考える必要のなくなったミレド王は、自分の姪であるアシミムが、自分の命を狙っていると気づけなかった。

国王になる前、野心家だったときの彼なら、すぐ気がついただろうに。

国王になってからというもの、ミレド・トレギアスに、不可能だったことは何もなかった。

何もかもが、放っておけば自分の思い通りになる。

それが当たり前になっていたから、彼は平気で、ルティス帝国に侵攻することを決めたのだ。

上手く行かないかもしれないなど、考えもしなかった。

自分が侵攻しようとする国のことは、ろくに調べもせず。

『白亜の塔』さえあれば、全て万事上手く行くと信じていた。

彼がもし、野心家で、策略家だったときの彼なら。

ルティス帝国に、『青薔薇連合会』というマフィアがいることを知っていたら。

『青薔薇連合会』に、絶対に敵に回してはいけない黒い死神がいることを知っていたら。

…ミレド・トレギアスの治世は、彼が天寿を全うするまで安泰だっただろうに。