その主人の屋敷は、ヘールシュミット家の屋敷に負けず劣らず、広大なものだった。
おまけに主人は、自分の屋敷が少しでも汚れていることが許せなかったらしく。
小うるさい姑のように、部屋の隅の埃や、小さな汚れを見つけては、奴隷達を怒鳴り付けた。
怒鳴るだけでは飽き足らず、暴力にまで訴えてきた。
主人のお気に入りは、特注の鞭だった。
家にいるときは常にそれを持ち歩き、ほんの少し奴隷が自分の気に入らないことをしたときは、容赦なくそれで殴り付けてきた。
俺も、何度も殴られたことがある。
そのときの傷痕は、未だに消えていない。
外に出れば、主人は人当たりが良く、親切で慈悲深い人だと言われていた。
しかし家の中では…俺達奴隷にとっては…地獄の獄吏でしかなかった。
主人にとって奴隷は、人間ですらなかったのだろう。
奴隷が自分と同じ人間だなんて、考えたこともなかったはずだ。
残虐な主人のもとに仕える奴隷は、得てして不幸である。
俺も、そして母もそうだった。
おまけに、主人は残虐なだけではなかった。
浪費家で、でも一方では倹約家だった。
相反する言葉ではあるが、あの主人は両方の言葉が当てはまっていた。
自分の見栄と、それから自分の囲っている愛人の為なら、いくらでも金を注ぎ込んだ。
しかしそれ以外のもの…例えば奴隷の為に使う金など…は、一銭たりとも余分には使わなかった。
お陰で、俺達奴隷は毎日飢えに苦しめられていた。
奴隷が食べ物など、豚の餌で充分だと、当たり前のように考えている人だった。
自分はたらふく馳走をたべておきながら、奴隷達には毎日、小さなパンと薄いスープしか与えなかった。
あまりの飢えに耐えかね、厨房に忍び込み、パンを盗んだ奴隷の少年もいた。
彼のことは、一生忘れないだろう。
少年は捕まって、主人の前に引き立たされた。
そして、何度も何度も、倒れて気絶するまで鞭で打った。
気絶する度に冷水の入ったバケツに頭を押し込み、意識を取り戻したら、また鞭で打った。
あまりの残虐な罰に、同じく奴隷だった彼の母親が、後生だからもう許して欲しい、と土下座して訴えた。
しかし、主人は決して許しはしなかった。
それどころか、母親も同罪だとして、母親にも同様の罰を与えた。
結局、少年はその場で亡くなり。
母親の方は、その場ではなんとか一命を取り留めたが…ろくに治療もしてもらえず、拷問の傷が原因で、ほどなくして亡くなった。
それでも、主人は悪びれることすらなかった。
「自業自得だ」と笑っただけだった。
何でこんなに詳しく知っているかというと、俺も拷問の様子を見せられたからである。
俺だけではない。屋敷の奴隷は全員見せられた。
結局あの少年は、見せしめにされたのだ。
俺に逆らえばこうなるんだぞ、と奴隷達に教え込む為に。
俺はあのとき、まだ物心ついたばかりの幼子だったが。
ぐちゃぐちゃに裂けた少年の背中を、今でも覚えている。
それよりも俺の目に焼き付いて離れないのは、奴隷を鞭打っているときの、主人の残酷な笑みだった。
人を傷つけながら、何故ああも笑えるのか。
この男は、歪んでいる。
幼いながらに、俺はそれを確信していた。
この男だけじゃない。奴隷制度なんて残酷な慣習がある、このシェルドニア王国という国も…。
おまけに主人は、自分の屋敷が少しでも汚れていることが許せなかったらしく。
小うるさい姑のように、部屋の隅の埃や、小さな汚れを見つけては、奴隷達を怒鳴り付けた。
怒鳴るだけでは飽き足らず、暴力にまで訴えてきた。
主人のお気に入りは、特注の鞭だった。
家にいるときは常にそれを持ち歩き、ほんの少し奴隷が自分の気に入らないことをしたときは、容赦なくそれで殴り付けてきた。
俺も、何度も殴られたことがある。
そのときの傷痕は、未だに消えていない。
外に出れば、主人は人当たりが良く、親切で慈悲深い人だと言われていた。
しかし家の中では…俺達奴隷にとっては…地獄の獄吏でしかなかった。
主人にとって奴隷は、人間ですらなかったのだろう。
奴隷が自分と同じ人間だなんて、考えたこともなかったはずだ。
残虐な主人のもとに仕える奴隷は、得てして不幸である。
俺も、そして母もそうだった。
おまけに、主人は残虐なだけではなかった。
浪費家で、でも一方では倹約家だった。
相反する言葉ではあるが、あの主人は両方の言葉が当てはまっていた。
自分の見栄と、それから自分の囲っている愛人の為なら、いくらでも金を注ぎ込んだ。
しかしそれ以外のもの…例えば奴隷の為に使う金など…は、一銭たりとも余分には使わなかった。
お陰で、俺達奴隷は毎日飢えに苦しめられていた。
奴隷が食べ物など、豚の餌で充分だと、当たり前のように考えている人だった。
自分はたらふく馳走をたべておきながら、奴隷達には毎日、小さなパンと薄いスープしか与えなかった。
あまりの飢えに耐えかね、厨房に忍び込み、パンを盗んだ奴隷の少年もいた。
彼のことは、一生忘れないだろう。
少年は捕まって、主人の前に引き立たされた。
そして、何度も何度も、倒れて気絶するまで鞭で打った。
気絶する度に冷水の入ったバケツに頭を押し込み、意識を取り戻したら、また鞭で打った。
あまりの残虐な罰に、同じく奴隷だった彼の母親が、後生だからもう許して欲しい、と土下座して訴えた。
しかし、主人は決して許しはしなかった。
それどころか、母親も同罪だとして、母親にも同様の罰を与えた。
結局、少年はその場で亡くなり。
母親の方は、その場ではなんとか一命を取り留めたが…ろくに治療もしてもらえず、拷問の傷が原因で、ほどなくして亡くなった。
それでも、主人は悪びれることすらなかった。
「自業自得だ」と笑っただけだった。
何でこんなに詳しく知っているかというと、俺も拷問の様子を見せられたからである。
俺だけではない。屋敷の奴隷は全員見せられた。
結局あの少年は、見せしめにされたのだ。
俺に逆らえばこうなるんだぞ、と奴隷達に教え込む為に。
俺はあのとき、まだ物心ついたばかりの幼子だったが。
ぐちゃぐちゃに裂けた少年の背中を、今でも覚えている。
それよりも俺の目に焼き付いて離れないのは、奴隷を鞭打っているときの、主人の残酷な笑みだった。
人を傷つけながら、何故ああも笑えるのか。
この男は、歪んでいる。
幼いながらに、俺はそれを確信していた。
この男だけじゃない。奴隷制度なんて残酷な慣習がある、このシェルドニア王国という国も…。


