「…!?」

殺されるのかも思ったらいきなり解放され、さすがの華弦も困惑していた。

「な…何を…?」

「別にあなたを殺そうなんて思っちゃいませんよ。今のはご愛嬌と言うか…」

一応こいつも、俺の洗脳に荷担したんだよなと思うと。

ちょっと痛い目を見せてやろうかなって気になってしまっただけで。

決して、怯える女の顔を見て楽しんでやろうとか、そういうのじゃないから。

うん。そういうのじゃないからな。

俺、心優しい善良な大人だから。

「とにかく、あなたを殺す気はないので、まぁ安心してくださいよ」

俺はパチン、と電気をつけた。

華弦は、信じられない、みたいな顔をして、呆然と俺を見つめていた。

何が信じられないのか…。

「聞きたいことがあるならどうぞ」

「あ、有り得ない…。何故、洗脳が解けたんです?いつから…?」

あぁ、まず一番に聞きたいのはそれか。

「洗脳が解けたのは、結構最近ですよ。先日、ルルシーとルリシヤが滞在してる王都のホテルに単身、乗り込んだでしょう?」

「…!あのときに…?でも、どうやって…?あのルリシヤという男が、何か…」

良い質問じゃないか。

「うふふ、あなたに良いことを教えてあげましょう」

心に刻んでおくと良い。

俺の人生の教訓だ。

「いつの時代も、愛は人の運命を変える…ってことをね」

「…!?」

華弦の、この「こいつ何言ってんだ?」みたいな顔。

全く、これが分からないとは…まだまだお子様だな。

俺の運命を変えたのは、間違いなく俺とルルシーの愛だ。

あぁ素晴らしい。帰国したら即刻結婚式挙げよう。

そのときのことを考えると、楽しみ過ぎて涎が出そうである。

さて、それはともかく。

「俺はもう、アシミムの手先ではありませんよ。残念でしたね」

「…なら、何をしに来たのです。やはり…私を殺すつもりで…?」

「何故俺があなたを殺すんです?」

「…あなたの洗脳に、私も荷担していたから」

確かに、万死に値するね。その罪は。

その罪の償いは、ちゃんとしてもらわなくては困るが。

「今はそんなことはどうでも良いんですよ。あなたが俺の洗脳を計画した訳じゃありませんからね」

「…」

「…それより…ルルシーから、気になることを聞きましてね。その詳細を確かめようかと思って」

「…気になること?」

全くもう。しらばっくれちゃって。

よーく分かってるはずだぞ?

「…あなたも、アシミムを憎んでいるそうじゃないですか」

「…それは」

「誤魔化しても駄目ですよ。あなたの過去は、ルルシー達から聞きましたから」

実に胸糞悪くなる話だったよ。

もし俺とルルシーが同じ立場ったら…と思うと、実に胸糞悪い。

アシミムを殺したいほど憎むのも、当然のことだ。

「…えぇ。私はあの女が許せません。いつか必ず、復讐を…」

「…良い目じゃないですか」

憎悪と殺意に燃える、魅力的な目だ。

こんな目が出来るという点が、華弦とルヴィアさん嫁との大きな違いだな。