その夜、俺はいつも通り、アシミムに忠実な臣下の振りをし。

それではお休みなさい、とアシミムが寝室に戻るのを見届けてから。

可愛い子ネズミちゃんの部屋に、こっそりと侵入した。

乙女の寝室に無断で立ち入るなど言語道断!と言われるかもしれないが。

忘れてはいけない。

乙女の寝室に立ち入るのは、元々俺のジョブみたいなものだ。

アリューシャ曰く…俺の…日常でね?

だから…気にすること…ないんでね?

まぁ言われなくても気にしないけど。

今日の目的は、夜這いって訳でもないし。

ただ…子ネズミちゃんと会って、話しておこうと思っただけだ。

…すると。

「…」

アシミムのお守りを終えた子ネズミ…華弦…が、自室に戻ってきた。

彼女が部屋の扉を閉め、電気のスイッチに手を伸ばそうとした、そのとき。

俺は蛇のようにぬるりと彼女の背後に回り、片手で彼女の顎を持ち上げ、喉元に鋭いナイフを当てた。

「うっ…ぐ…!?」

「こんばんは、子ネズミちゃん…。良い夜ですね」

「…!?ルレイア・ティシェリー…!?」

彼女の目は、驚愕に見開いていた。

こうやって至近距離で見ると、確かにこの子、ルヴィアさん嫁にそっくりだな。

瓜二つじゃないか。何で気づかなかったんだろう。

「わ…私を…殺しに来たんですか…。アシミムに指示されて…!」

「あぁ…うん。まぁそういう解釈になってもおかしくないですね」

華弦は、俺がまだアシミムに洗脳されてると思ってるんだろうからね。

だが。

「何のことはありませんよ。俺はもう…アシミムの手先じゃないってだけの話です」

「…!」

「皆で俺を洗脳してくれて、ありがとうございますね。お陰で俺、愛しいルルシーを殺すところでした。本当に…感謝してますよ」

華弦の首に、ナイフの刃を強く当てた。

華弦が息を呑む音が聞こえてきた。

この瞬間、彼女は死を覚悟した…のかと思ったら。

華弦は諦めていなかった。彼女の目は、敵意を宿していた。

見上げた根性だ。この状況でもなお、諦めないとは。

それもそのはず、華弦は、自分の身も守れない、それどころか縦ロールのお手入れも自分では出来ないアシミムとは違う。

目的がある。

復讐という、生きる糧が。

だから諦めない。

華弦は俺に拘束されながらも、左手をこっそりと動かした。

服の袖の中に、何らかの武器を仕込んでいるのだろう。

だが、相手が悪かったな。

「…おいたは駄目ですよ」

「くっ…!」

彼女が服の中に仕込んでいたカッターの刃を取り出す前に、俺は華弦の左手を掴んでいた。

それでも華弦は諦めていなかった。

彼女の目は、生きることを諦めていない。

…全く。呆れた女だよ。

箱庭帝国出身の人間って、皆こうなのかな?

ルアリスを見てるみたいで、何だか興が削がれる。

でも、こういう女は嫌いじゃない。

屈服させて、ベッドで身も心も俺色に染め上げてあるくらいには、好みだ。

「…冗談ですよ」

俺は華弦から手を離し、ナイフをしまった。