と言うか。

お前は、さっきからずっと爪のことを考えてたのか。

ルティス帝国にかつてない危機が迫っていること、分かってるか?

「状況が分かっているのか貴様!」

これにはアストラエアも激怒。

あぁ。お前怒って良いと思うぞ。

「状況って…。シェルドニア王国の話か?」

「それ以外に何がある!」

「そうか。シェルドニア王国が何を企んでいようと、俺達に考えるべきことなんて何もない」

「…何だと?」

考えるべきことはないって、それは…。

「最後通牒を出されようが、国交断絶されようが、宣戦布告されようが、ルティス帝国は戦争はしない。少なくとも俺が帝国騎士団長を務める間は、弾丸の一発たりとも撃たない」

「…!」

オルタンスは、きっぱりとそう言ってみせた。

…騎士団長らしいこと、言おうと思えば言えるんじゃないかよ。この野郎。

なら、ふざけずに最初からちゃんとそう言え。

「…銃を向けられても、抵抗せず黙って撃たれるということか?宣戦布告されても、すぐに降伏するということか?」

「あぁ」

「なんと弱腰な…!それで死ぬことになるのは国民なのだぞ!」

「そうだな。でも、甚大な被害が出ると分かっている戦争に、自ら足を踏み入れる訳にはいかない。俺は戦争は嫌いなんだ」

「好き嫌いの問題ではない!」

「好き嫌いの問題だ。シェルドニアが戦争を仕掛けてくるのも、結局は好き嫌いの問題なんだから」

…そうだな。

シェルドニアに、ルティス帝国に侵攻しなければならない理由なんて、ないはずだ。

要するにミレド王の好き嫌いの問題で、ルティス帝国に侵攻してくる訳だ。

なら、オルタンスの主張も分かる。

「それに、降伏すればルティス帝国民までもが、洗脳の餌食なるんだ。それを分かっているのか!?」

「あぁ。でも洗脳されたからって死ぬ訳じゃない。弾丸の雨の中で、遺体を省みられることもなく死ぬよりはマシだと思わないか?」

「…!」

…戦争で死ぬよりは。

まだ、何も知らずに洗脳されて死ぬ方がマシか。

国民にとっては、そうかもしれないな。

「ともかく俺は戦争はしない。以上だ。考えることは何もない」

…お前がそこまで腹を決めてるなら、もう口出しすることはなにもないけどよ。

「…それでも、アルティシア様が開戦に賛成したら、戦争始めない訳にはいかないんだぞ。それ分かってるか?」

「…」

じーっ、とこちらを見つめるオルタンス。

…見んな。

「…そのときは、俺はすぐに騎士団長を降りる」

とにかく戦争に荷担したくないらしいな。お前は。

まぁ、気持ちは分かる。

正直…俺も、オルタンスと同じ意見なのだ。

戦争して、国民を殺し、苦しめるくらいなら。

もういっそ、さっさと投降した方が良いんじゃないかと思う。

勿論、投降した後、ミレド・トレギアスにルティス帝国を好き放題され、戦争をするより酷い結果になるかもしれないことは分かっている。

それでも、戦争をすれば、勝ったとしても負けたとしても、大して変わらない破滅が訪れることは分かっているのだから。

それならまだ、投降して、目に見えている破滅だけでも、避ける方が利口なんじゃないかと思った。