「色々聞きたいことがあるでしょうから、まずあなたが聞きたいであろう質問に、順番に答えておきます」

「あ、はい…」

「一つ、俺は確かに洗脳されていましたが、既に解けていますし、ルルシーやルリシヤとも連絡を取れる状況にあります。二つ、今はアシミムに洗脳されている振りをして、あの女の寝首を掻く為に牙を研いでいるところです。三つ、この国の洗脳システムは本物です。四つ、アシミムの目的はミレド王に人質にされてる弟を取り戻すことです。信じられないでしょうが、今は俺の言うことを信じてください」

「は…はい」

この人が、洗脳されていない、本物のルレイア殿なら。

彼の言葉を疑う必要はない。

早速信じられない話ばかりだが、とにかく今は、あれこれ聞かず…その答えを信じよう。

「以上。他に何か聞きたいことは?」

聞きたいこと…何もないくらいに、完璧に答えてくれたけど。

でも、敢えて聞くとしたら…。

「…では、ルレイア殿は…ルルシー殿やルリシヤ殿は、三人共無事なんですね?洗脳もされておらず…三人共正気なんですね?」

「無事であることは保証します。でも、洗脳の方はどうでしょうね。俺は今の自分がルレイア・ティシェリーだと確信していますが、洗脳されているときでも、『自分は正気だ』と思ってましたし」

それは…まぁ、仕方ないが。

ともかく、ルレイア殿が自分をルレイアだと分かっているのなら、それで良い。

「分かりました。良かった…無事で…」

今すぐにでも、ルティス帝国の…アイズレンシア殿達に伝えてあげたい。

ルレイア殿は無事だと。洗脳もされてないと。

さぞかし喜ぶことだろう。

「で?今度はこっちが聞きますが…あなたは、遥々シェルドニアまでのこのこと、何しに来たんです?」

この容赦のない聞き方、間違いなくルレイア殿だ。

「ルレイア殿達の無事を確かめる為に…アイズレンシア殿に頼まれて」

「あぁ、成程…。アイズが…。あなたもお人好しですね。国家元首の癖に…よくも国を放り出して、マフィアの使い走りなんて」

「当然です。ルレイア殿は俺の恩人ですし…。ルレイア殿が行方不明と聞いて、俺もずっと心配していましたから…」

「ふーん…。まぁ、その気持ちだけは感謝しておきますよ」

実に素っ気ない言い方だが、俺は充分に満足だった。

ほんの少しでも、彼に恩を返せたような気がした。

ホッとした俺だったが、しかし、そんな呑気な話をしていられる状況ではなかった。

「ルレイア殿…あの」

「何か?」

「先程、アシミム殿の寝首を掻くと言ってましたが…」

「あぁ、勿論ですよ。俺とルルシーを引き裂いた罪は、しっかり償ってもらわないと。まずは煮て、干して、焼いて、千切って、縫って、揚げてやろうかと」

非常に恐ろしい例えだが。

この人なら本当に全部やりかねないから、余計に恐ろしい。

「ミレド王の暗殺は?」

「うん?あなたそこまで知ってるんですか」

「ルリシヤ殿がルティス帝国に送ったメッセージ、俺も聞いたので…」

「あぁ、ルルシーが言ってましたね、そんなこと…。成程。でも俺が憎んでるのはアシミムだけなので、わざわざミレド王を暗殺するリスクを冒すつもりはありません。あいつは放置です」

「放置…」

その言葉を聞いて、ルレイア殿は、ミレド王の企みを知らないのだと分かった。

あれを知れば、ルレイア殿はどうするだろう?

俺が複雑な表情をしていることに気づいたのか。

ルレイア殿は、険しい顔をして、

「…ルアリス。あなた何を知ってるんです」

「…ルレイア殿。俺は昨日、ミレド王と会談しました。そのときのことを話します」

「…聞きましょう」

これを話すことは、ミレド王に対する裏切りだ。

だが、俺は躊躇わなかった。