The previous night of the world revolution4~I.D.~

豪華客船『ホワイト・ドリーム号』は、ルティス帝国と大洋を挟んだ向こう側にある、シェルドニア王国が所有する観光船である。

ルティス帝国の港に停泊したその船に、俺達は三人揃って乗り込んだ。

「ほぇ~、噂には聞いていましたが、でっかいですねぇ」

俺はその真っ白な建築物を見上げた。

大きな客船の中央に、天に届くほど高い建物がそびえ立っている。

さすが、この船の目玉なだけある。間近で見ると、凄い迫力だ。

「何だ、あれ…。煙突みたいな…」

俺の視線の先に気づいたルルシーが、そう呟いた。

「知らないのか?ルルシー先輩、不勉強だな。この船の一番の見所じゃないか」

「いや、不勉強だって言われても…。俺、この旅行を知らされたの先週だからな?」

「あれは煙突じゃなくて、展望台なんですよ、ルルシー」

俺は、ルルシーにそう説明した。

「展望台…」

「そう。『白亜の塔』って名前でしたっけ。客船の展望台としては、世界最高の高さらしいですよ」

「展望台の最上階から見る景色は、絶景だそうだ。是非上ってみよう」

「へぇ…」

などとお喋りをしながら船に乗り込むと、燕尾服を着用したボーイさんが、俺達にお辞儀をした。

「いらっしゃいませ。『ホワイト・ドリーム号』にようこそ。失礼ですが、招待状はお持ちですか?」

「はい、どうぞ」

俺はオルタンスにもらったペア招待券を、ボーイさんに見せた。

更に、ルリシヤも乗船チケットを見せた。

ルリシヤのチケットは、俺とルルシーの招待券とは違う。

「…?ルリシヤだけチケットが違うのか?」

と、ルルシーが俺に小声で聞いてきた。

「そうなんですよ。俺とルルシーの部屋はオルタンスが予約したSクラスの客室なんですが、ルリシヤのはAクラスなんです。空きがなかったらしくて」

「そうなのか…」

「まぁ、でも昼間はお互いの部屋を訪ねられますし」

寝る場所が違うだけだ。昼間は一緒に行動出来る。

受けられるサービスも、ほとんど大差ないからな。

しかし。

ルリシヤのチケットを見た途端、ボーイさんはハッとして、それから申し訳なさそうな顔をして、深々とお辞儀した。

「申し訳ございません、お客様。お客様の客室ですが、ご予約されていたお部屋に、こちらの手違いで別のお客様の予約を入れてしまいまして」

「えっ」

これには、俺もルルシーもルリシヤも、ぽかんであった。

何だって?

「その為、ご予約されていたお部屋が使えなくなっておりまして…」

「おい、ちょっと何だそれは」

ルルシーが、怒りを滲ませてボーイさんに食って掛かった。

「こちらの手違いで…じゃないだろ。ルリシヤだってちゃんと予約してたのに、ルリシヤだけ門前払いにするつもりか?」

「ちょっとちょっとルルシー、怒っちゃ駄目ですって」

いつもルリシヤのこと、文句ばかり言ってる割には…こういうときはルリシヤの為に怒るんだもんなぁ。

ルルシーったらシャイなんだから。

「予約が取れてないってことは…俺だけ船には乗れないってことか?」

ルルシーに反して、ルリシヤは冷静だった。

「いえ、予約の取り違えは、こちらのミスですから。お客様には、Sクラスのお部屋を…そちらの二名様のお隣の部屋を空けておりますので、そちらへお泊まり頂きたいのですが」

「あぁ…成程」

これを聞いて、ルルシーも引き下がった。

予約していたAクラスのお部屋は、間違えて別の人を入れちゃったけど。

代わりに、Sクラスの…俺達の隣の部屋を押さえてあるので、そちらを使ってくれと。

まぁ、それなら良いか。

「誠に申し訳ございません」

ボーイさんは丁寧にお辞儀をして、ルリシヤに謝った。

ルリシヤは気にしてないという風に、ひらひらと手を振った。