その夜。

俺はヘールシュミット邸でアシミム殿と共に夕食を摂り、その後は用意された客室に連れていかれた。

ここで寝ろよ、ってことなんだろうけど。

まだ寝る訳にはいかない。

折角この家で一晩を過ごせるのだ。なんとかして、ルレイア殿とコンタクトを取りたい。

どうしたものかと頭を悩ませ、いっそ部屋を脱走してルレイア殿を探しに行くか、でも彼の居場所が分からないのに、屋敷の中を徘徊していたら怪しまれるだろう。

でもこのまま手をこまねいて、朝になったら、何の意味もない。

ここは多少危険を冒してでも、ルレイア殿を探しに行くべきだ。

俺はそう決意して、深夜、日付が変わる頃に…こっそりと客室を抜け出そうとした。

すると。

「よっ…と」

「!?」

天井から、しゅたっ、と。

ルレイア殿が落ちてきた。

「なっ…!ど、どうやってここに」

「静かに」

ルレイア殿に睨まれ、俺は即座に口をつぐんだ。

さすがに、こういうときはマフィアの威圧感である。

「あなたをこの部屋に案内したのは俺なんだから、あなたの部屋を知ってるのは当然でしょう。あとは天井裏の通気孔を通ってくるだけです」

ルレイア殿は、通気孔を通るときについたらしい埃を、ぱんぱんと払っていた。

あぁ、成程…そういうことか。

天井には、四角い穴がぽっかりと空いていた。

あんなところから…。まるで忍者のようである。

「それよりあなた、何処に行こうとしてたんですか。夜這いですか」

「よばっ…!…違います。ルレイア殿に、会いに行こうと…」

「そうですか。余計なことせず、待っていれば良いんですよ。全く入れ違いにならなくて良かった」

…済みません。

…それよりも。

俺は天井をぐるりと見渡した。

「あの…この部屋、監視カメラとか…」

仕掛けられていたら、ルレイア殿も危ないのでは?

と、思ったが。

「当然ありますよ。でも当然俺が弄ってあるので、二、三時間は気にせず喋ってください」

成程。さすがである。

「でも、廊下で立ち聞きされたら困るので。くれぐれも声量は抑えて」

「わ、分かりました」

とにかく、ルレイア殿の方から来てくれるなんて、これなら話が早い。

「ルレイア殿、あの…!」

意気込んで色々質問しようとした俺を、ルレイア殿が手で制した。