The previous night of the world revolution4~I.D.~

…この人。

「…箱庭帝国が、ルティス帝国の友好国だと知っていながら、それを私に言うのですか」

ようやく絞り出した声は、自分でもはっきり分かるほど震えていた。

「えぇ。だからこそです。我々が海から、貴国が陸からルティス帝国を挟撃すれば、あの大国も落ちるとは思いませんかな」

…妙にルティス帝国を目の敵にしていたのは、これが理由か。

ミレド王の目は、野心家のそれだった。

「ルティス帝国が落ちれば、領土の半分は貴国にお渡ししましょう。ルティス帝国が落ちれば、ゆくゆくはアシスファルト帝国も手に入れ…シェルドニアは、二つの大陸の覇者となる」

「…」

「貴国にも、その勝ち馬に乗るチャンスがあるのです。どうです?このままルティス帝国の隅っこで震えているより、我々の手を取った方が…」

「…私に、大恩あるルティス帝国を裏切れ、と?」

「恩義を感じて手をこまねいているうちに、ルティス帝国に攻め込まれたらどうするんです。こちらが裏切らないからと言って、向こうが裏切らない保証はないでしょう」

ミレド王は呆れたように言った。

これだから何も分かってない若造は、と言わんばかりの態度。

…俺は確かに若造だろう。野心家のミレド王からしてみれば、俺は何も分かってない子供。

でも、恩を感じる気持ちは知ってる。

「…私は、ルティス帝国の国土なんて欲しくありませんよ」

俺は、静かにそう答えた。

俺は野心家の器ではない。

革命のとき、あれほど世話になったルティス帝国に…平気で恩を仇で返せるほど、恩知らずでもない。

「それにあなたの理屈で言えば…あなたを信じてシェルドニア王国についたとしても、今度はあなたに裏切られない保証はありませんよね」

「…!そんなことは…」

しない、と。

まぁ、口では何とでも言える。

「それに、ルティス帝国と戦争をしたとして…危なくなったら、貴国はすぐ海を渡って引き返せる。しかし、ルティス帝国の隣に面している我が国は、いざとなったとき逃げる場所もありません」

シェルドニア王国が、箱庭帝国を見捨てて自分達だけ逃げない保証が何処にある。

味方を裏切って自分達の側に来い、と言うものほど、信じられない台詞はない。

大体、ルティス帝国を占領するまでは俺達を散々利用して…利用し終わったら手のひらを返すくらいのこと…この人なら、平気でやってみせるだろう。

そんな人を、信用することは出来ない。

ならば、ルティス帝国の隅っこで、ぶるぶる震えている方がまだマシじゃないか。