「そうですね…。色々とありますが、我が国では最近、ルティス帝国から技術支援を受けて、海洋漁業に力を入れ始めまして」

「ほう」

「我が国の海は波が高く、海岸線が複雑に入り組んでいて、危険だと言われていましたが…。逆にそれを利用して、入り組んだ湾で魚や海藻を養殖して、それを輸出しています」

この方法は、ルーシッド殿が派遣してくれた、ルティス帝国の海洋漁業の専門家が考案してくれたものだ。

今のところこの方法は軌道に乗っており、また、憲兵局から解放され、それまで強制労働に従事させられていた多くの失業者達に、新たな職を与えることにもなった。

そして。

「それだけではありません。更に我が国では、観光業にも手をつけ始めていて」

「観光…?しかし、貴国には観光出来るような場所はなかったでしょう」

これも、大変侮辱的な言葉だ。

だが、俺は物ともしなかった。

「そんなことはありません。箱庭帝国は長く鎖国を続けていましたが、それだけにその土地ならではの民族文化は、非常に発達しています。例えば…ほら、この人形を見てください」

俺は、お土産の為に持参していた人形を、ミレド王に見せた。

硬い植物で織った人形で、片方の目が赤い糸で潰されているのが特徴だ。

「な…何ですか?この薄気味悪い人形は…」

ミレド王は、露骨に顔をしかめた。

薄気味悪い、とは。

確かに、見たことがない人はそう思うかもしれないが…。

「これは、箱庭帝国の少数民族が作った人形です。人形の着ているドレスは、その土地でしか咲かない特別な花の染料を使っていて、他の染料ではこの色を出すことは出来ないんですよ」

「へぇ…」

「それに、この目。潰れているように見えますが、この人形は魔除けの意味もあって…。持ち主の代わりに厄を受ける、という意味で、片目が潰れているんです」

だから箱庭帝国では、この人形は持ち主を守ってくれる、お守りのように扱われている。

確かに可愛い人形という訳ではないが、持ち主の代わりに不幸を受けてくれる、有り難い人形なので。

新生活を始める若者や、赤ん坊が生まれたときなんかに、厄除けの意味でプレゼントされる。

持ち主に代わって、不幸から守ってくれますように、と。

「他にも、箱庭帝国には各地に秘境の地があって、中には、起伏が激しい土地柄故に見られる絶景などもあって…。そこを観光客に解放出来るように、整備を進めているところなんです」

「そうでしたか」

俺は必死に力説したが、ミレド王は意識してか、それとも無意識のことか…半笑いで聞いていた。

弱小国家が、少ない国の資源をなんとか捻り出そうと必死になっているように見えたのだろう。

何処までも馬鹿にされていて、悔しい思いをしたが…俺は、やはり黙っていた。