これは、とんでもない誤解だ。

そして、俺達箱庭帝国に対する、この上ない侮辱でもある。

「…ミレド国王。箱庭帝国は、ルティス帝国の属国にされている訳ではありませんよ」

俺は、出来るだけ穏やかに答えた。

今ここでこの人と対立して、良いことなんて何一つないのだから。

そして、今の箱庭帝国に、恥じるべきものなどない。

「は?違うんですか?」

「はい。確かに革命のときは、ルティス帝国の…帝国騎士団の方々に協力してもらいましたが…。だからと言って、ルティス帝国に従属させられている訳ではありません。あくまで、対等な国交をさせてもらっています」

この言い方には、やや語弊がある。

確かに帝国騎士団にも…ルーシッド殿にも、返しきれない恩があるが。

それ以上に、俺達を助けてくれたのは…ルレイア殿以下、『青薔薇連合会』の人々だ。

だが、マフィアに革命の手助けをしてもらった、など公表する訳にはいかない。

だからあくまでも、表向きは、「革命に協力してくれたのは帝国騎士団」としか言っていない。

俺としては、堂々と『青薔薇連合会』を恩人だと言えないことに、もどかしさを感じるが。

それが国の為であると思っているから、何とか我慢している。

「そうでしたか…。それはそれは」

ミレド王は、非礼を詫びることもなく、冗談めかして笑っていた。

ルレイア殿なら、この場でこの人の首を一刀両断しているだろうな、と思った。

だが、俺は曖昧に微笑みを返すだけだった。

「ところで、ルアリス卿。私はあまり箱庭帝国のことは存じ上げないのですが、開国後、貴国はどうやって国を建て直されたんですか?」

気まずい空気になったことに気づいたのか、ミレド王は露骨に話題を変えた。

だが、この質問さえ、俺は侮辱されているように感じた。

言葉の節々、その態度から…「お前の国、何か誇れるようなところあったっけ?」という侮蔑が滲み出ていたから。

確かに、箱庭帝国は長く、不毛の地だと言われてきた。

今だって豊かな国ではないし、ルティス帝国や、ルティス帝国が仲介してくれたアシスファルト帝国が支援してくれたからこそ、国を建て直すことも出来たのだ。

自分達だけでは、成し遂げることは出来なかった。

それだけは、認めざるを得なかった。

だが。

箱庭帝国が、貧しく、何の特色もない国であったのは、昔の話だ。