The previous night of the world revolution4~I.D.~

「ルヴィア…。どうした?」

「これ、ルルシーさんのサインが要る書類です」

「あ、うん…。ん?」

ルヴィアは、ドサッ、と俺の机に書類の束を置いた。

俺のサインが必要な書類を、ルヴィアがまとめて持ってくるのはいつものことだ。

だから、何もおかしなことはない…はずなのだが。

今日ルヴィアが持ってきた書類…やけに量が多い。

いつもの…軽く四倍はあるぞ。

何故そうなる?何か急ぎの案件でもあったか?

記憶を辿ってみるも、何も思い付かない。

「ルヴィア…。何で、今日…こんなに多いんだ?」

「え?」

「いつもの四倍はあるじゃないか」

「何でって…。ルルシーさんが指示したんじゃないですか」

何を今更、ときょとんとするルヴィア。

は?

「先日、メール送ってきたでしょう?『今度二週間ほど新婚旅行に行くから、二週間分の書類を早めに仕上げてくれ』って。だから俺、ここ三日ほど毎日残業して、仕上げてきたんですけど…」

「!?」

な…何だ、それは。

俺はそんなメール、送った覚えはないぞ。

「ちょっ…そ、そのメール見せてくれ」

「?良いですけど…あ、ありました。これです」

ルヴィアの携帯を覗き込むと、そこには確かに、俺のメールアドレスから送られていた。

新婚旅行に行くから、早めに仕事を仕上げてくれという趣旨の指示をしてた。

何だこれは…。俺はこんなメール、送った覚えは。

するとそのとき、俺ははたと気づいた。

このメールを送った時間。

…深夜だ。真夜中だ。

俺が…寝てる時間だ。

「…なぁ、ルリシヤ」

「うん?」

「怒らないから言え…。お前、俺の家に忍び込んで、勝手にルヴィアにメールを打って、勝手にルヴィアに送ったか?」

「失礼だなルルシー先輩。俺はそんなことはしてないぞ」

そうか、そうだよな。

さすがのお前も、そこまではしないよな。

疑った俺が悪かっ、

「メールを打ったのはルレイア先輩だ。俺はそのメールをルヴィア先輩に転送しただけで」

「やっぱりお前じゃないかぁぁぁぁっ!」

俺はルリシヤをぶん殴ろうとしたが。

さすがはルレイアに匹敵する実力を持つ『青薔薇連合会』の武闘派。ルリシヤは華麗に避けた。

それから。

「お前もだ馬鹿ルレイア!」

「わっ!あっぶな~い」

こちらもひっぱたこうとしたのだが、さすがは元帝国騎士団四番隊隊長、鮮やかにかわしてみせた。

反射神経良過ぎるぞ、こいつら。

余計な才能ばかり蓄えやがって。

「ふざけんなよお前ら。俺は新婚旅行なんて…!」

絶対行くもんか、と言おうとしたのだが。

「いやぁ、三日も午前様したものだから、嫁が不機嫌になっちゃって大変だったんですけど…。ルレイアさんとルルシーさんの新婚旅行と言われたら、俺も協力しない訳にいかないですから。楽しんできてくださいね、ルルシーさん」

「うっ…」

徹夜続きで、しかも嫁の機嫌取りにも苦労したのだろう。

ルヴィアは疲れた顔をしていたが、しかし表情は晴れやかだった。

これで、上司も心置きなく新婚旅行に行けるだろうと。

そんな献身的なルヴィアに、「新婚旅行なんて嘘だから、お前の頑張り全部無駄だよ」なんて。

…言える訳、なくね?

…なぁ、これ脅迫じゃね?

「…うふふー。ルヴィアさんの頑張りを無駄にする訳にはいきませんよね~」

「…おのれ…」

外堀から埋めてくる辺り、こいつはやはり悪魔だ。死神だ。