「…はー…」

「…」

「…やる気出ない…」

「…」

頭に、ハムスターランドのメインキャラクター、ハムッキーのカチューシャをつけ。

ハムスターランドの公式ガイドブックを指で弄くりながら。

ぐでーん、と机に突っ伏して、つまらなさそうに「やる気出ない」を連呼する。

なんともだらしがない、身近にこんな奴がいたら、「しゃんとしろ!」と怒鳴り付けたくなるところだが。

これが帝国騎士団長なのだから、最早呆れを通り越して、寒気がする。

こんな男に、帝国騎士団を預けて良いのだろうかと。

「…え、えっと…」

見てみろ。ルーシッドが反応に困ってる。

こいつ、毎回オルタンスに振り回されて、本当気の毒だよな。

お前、たまにはキレても良いと思うぞ。

俺もそろそろ耐久限界だからな。

「…おい!お前、そんなだらしない格好で、ルティス帝国民に申し訳ないと思わないのか!」

俺は、オルタンスの後頭部をひっぱたいてやった。

上司の頭をぶん殴るなんて、と言われるかもしれないが。

知ったことか。

「いい加減起きろ。やる気を出せ!弾劾するぞお前」

「アドルファス…。お前にも、いつか分かるときが来る。片想いの相手が、異国の地で生死すら不明となれば、悲しくて何もやる気にならないことを…」

「分かってたまるかそんなもん。最初にあいつを捨てたのはお前だろうが」

今更何を言ってんだ馬鹿。

この男、ルレイアが行方も生死も不明だと聞かされてからというもの。

ずっと、こんな調子なのだ。

実はルシェも似たようなものなのだが、あいつは腹が立たない。

でもこいつは違う。

アホみたいなカチューシャをつけて、間抜けな顔をして呆けている。

ぶん殴ってやろうかという気にもなるだろ。そりゃ。

一応仕事はちゃんとやっているから、そこは良いとして。

「はぁ…。一緒に行きたかったな。ハムスターランド…」

いい加減諦めろよ。って、何度言ったことか分からない。

ってか、行方不明になっていなかったとしても、お前と一緒には行ってくれないだろうが。

「そんなことはどうでも良いんだよ」

「どうでも良くな…あ、そうだアドルファス。それにルーシッド」

「あ?」

「はい?」

「一緒に行かないか。ハムスターランド」

さっ、とガイドブックを掲げて見せるオルタンス。

ルーシッドが、ぶはっ、と噴き出していた。

「誰がお前とハムスターランドなんか行くか」

マジでぶん殴りたくなったぞ。今。

俺達で妥協をするな。

行きたいなら、一人で行きやがれ。俺達を巻き込むな。

「…どうしても駄目か?」

「駄目だ」

「いっそサービス残業だと思って」

「そんなパワハラを受ける職場は、今すぐ退職してやる」

「はぁ…。やっぱりやる気出ない…」

イラッ、とした。

やっぱりこいつ、もう弾劾しようぜ。

何も知らない帝国民の皆さんに申し訳ない。