「叔父様、お久し振りですわね」

アシミムは、定期的に叔父に会う為に、王宮を訪ねていた。

その日、俺は初めてアシミムと共に、王宮を訪れた。

シェルドニア王宮は、大きさこそルティス帝国の王宮と大差ないものの。

建築様式の悪趣味なことと言ったら、箱庭帝国とは比べ物にならない。

だが、洗脳されていた俺は、そんなことさえ気づかないままだった。

ただアシミムの忠実な部下として、彼女の後ろに甲斐甲斐しく控えていた。

「あぁ、よく来たねアシミム。元気にしていたかい?」

頭のハゲた、みっともない中年の国王は。

醜く肥え太って、汗ばんだ手を、にこやかにアシミムに差し出して握手をした。

こんなに薄汚い、しかもハゲの国王に、何故女が群がるのだか、さっぱり理解が出来ない。

こいつがモテるのは、見た目の問題ではなく、こいつに国王としての地位があるからだ。

でなきゃこんな醜いブ男、誰が相手にするものか。

アシミムもそう思っているに違いないが、しかし彼女はそんな様子はおくびにも出さず、にこやかに挨拶した。

「叔父様も、元気そうで何よりですわ」

俺だったら、嫌いな相手には露骨に嫌悪を示してしまうだろう。

この点では、アシミムは立派だ。

「…ん?アシミム、そのボディーガードは?初めて見る顔だな」

ミレド王が、アシミムの後ろに控える俺に気づいた。

使用人ごときに、口を利く資格はない。

俺は、ただぺこりと頭を下げた。

「彼はわたくしの、新しい使用人ですわ」

俺の代わりに、アシミムがそう説明した。

「とても優秀なんですの」

「そうか…。以前は、物静かな長身の男じゃなかったか?」

ルシードのことである。

俺が来るまで、アシミムの傍にべったりとくっついていたのは、ルシードだった。

「彼も優秀ですけれど、今日は留守番してもらっていますの」

「ふーん…。そうなのか」

ミレド王は、どうでも良さそうに返事をした。

実際、彼にとってはアシミムがどんな使用人を連れていようが、どうでも良かったのだろう。

「それより、アシミム。今日は王宮で一緒に、夕食でもどうだ?」

ミレド王は純粋な好意で、彼女を食事に誘った。

しかし。

「ごめんなさい、叔父様。今夜は、自宅でお客様を招いて食事会をする約束をしてしまったのです」

国王の誘いより、自分の都合を優先するなんて。

プライドの高い王様なら、怒り狂っていたところだろうが。

王位には執着しても、自分の権威には執着しない、ボンクラ王は。

「そうなのか。それは仕方ないな」

あっさりと、そう引き下がった。

まぁ、本気でアシミムと食事がしたい訳ではなく、社交辞令の意味もあったのだろう。

「また今度、ご一緒させて頂きますわ」

「そうだな。また今度」

アシミムはドレスの裾を摘まんで、優雅にお辞儀をした。

若い女の子がする仕草としては、可愛らしいものがあるが。

良い年したババァがやると、滑稽を通り越して吐き気を催す光景だ。

それなのに、忠実なアシミムの部下であるルシファーは、そんなことにさえ気づかなかった。