アシミムはアシミムで、相当な悪党だ。

しかしこの国王、アシミムの叔父であるミレド・トレギアスは、アシミムを遥かに上回る大悪党であった。

およそ、国のトップに立つべきではない人間だ。

ミレドは、国民から巻き上げた税金で私腹を肥やす、典型的な暴君であった。

国民から徴収した多額の税を、国民の為に使うのではなく、その大半を自分の為に使っていた。

それだけでなく、自分の飼っている愛人の女達に、金をばらまいていた。

全く、国王ともあろう者が、女を囲って遊ぶとは。不健全にも程がある。

俺にはとても真似出来ないよ。

この国の税金は、ルティス帝国の基準と比べると、びっくりするくらい高い。

この税率を決めているのは、無論ミレドであり、そしてミレドの家族…トレギアス家の醜い豚共である。

奴らは、国民から巻き上げるだけ巻き上げて、自分達は楽しく遊んでいる。

お陰で、王都から少し外れた田舎では、生きていくことすらままならない国民が、わらわらいる。

これは、この国に来て初めて知ったことだ。

俺達がルティス帝国にいた頃知っていた、シェルドニア王国の裕福さは…見せかけのものだった、ということだ。

高い税金に疲れ、疲れ果てた国民達の顔は、かつて箱庭帝国で見られたそれに酷似していた。

まぁ、さすがに税金を納めないからって、箱庭帝国みたいに即処刑、なんて野蛮な真似はしないが。

シェルドニアも、箱庭帝国に負けじと悪さばかりしていた。

しかし、シェルドニアには、箱庭帝国のような革命が起きたりはしない。

あんなに馬鹿みたいな税金を取られているのに、国民は何の文句も言わなかった。

というのも、あの洗脳システムだ。

シェルドニア全体を覆う網目のように、国内に林立する『白亜の塔』。

あれが、国民達の不満をなきものにしているのだ。

あれがあるから、シェルドニアでは、あんな暴政が許される。

国民達は、不満を抱くことすら許されなくなったのだ。

全く、なんと残酷なシステムを考え出したものだ。

そんなアホなこと考える暇があったら、もう少し為政者としての心構えを学ぶべきだと思うのだが?

偉そうにふんぞり返ってるだけじゃ、国王は務まらないと思うぞ。

なぁ?ローゼリアさんよ。

それはともかく。

洗脳のお陰でやりたい放題の国王様は当然、糞みたいな奴だが。

アシミムも、それに負けてはいなかった。

彼女は俺を使ってミレドを調べさせ、奴を失脚させる口実を探っていた。

その一方で、アシミムは自分の敵意を、いつもミレドに気づかせないようにしていた。

トレギアス家とヘールシュミット家は別の家柄だが、両方が王族の血を引く貴族。

両家の間では、長い歴史の中で、何度も結婚を繰り返し、遺伝子は大いに入り交じっていた。

だからこそ、俺に言わせればアシミムもミレドも、大して変わらない。

同じ穴のムジナ、って奴だ。

しかし、こういう奴らは総じて、自分達が似た者同士であることに気づいていない。

この俺でさえ、洗脳のお陰で、アシミムが負け劣らず最低だってことに気づいていなかった。