俺には、箱庭帝国の言葉は分からない。

そして、その音声メッセージの…暗号じみた複雑な言葉も、ほとんど聞き取れなかった。

おまけにヘリウムガスで声も変えられていて、誰の声なのかも分からない。

「…どう、ですか?ルヴィアさん。これ、ルルシーさんでしょうか」

「そうだな…。これだけでは、何とも言えないが…」

ルルシーさんやルリシヤさんが、何らかの事情…盗聴や逆探知を恐れて、声を変え、暗号を交えて俺達にメッセージを送ろうとしている。

その可能性は、充分に有り得る。

特にルリシヤさんは、『青薔薇連合会』ではルレイアさんに並ぶほどの実力者であると聞く。

ルリシヤさんはまだ『青薔薇連合会』に入って日も浅く、しかもここに来る前は、『セント・ニュクス』という中規模のマフィアにいたそうだ。

そんな彼がいきなり『青薔薇連合会』の幹部に立ったのだから、最初の頃、部下達は当然不満に思っていた。何処の馬の骨とも知れない、しかもまだ歳も若い青年が、幹部になるなんて、と。

おまけに、変な仮面までつけている。

あいつの命令なんて、絶対に聞いてやらない。そう愚痴っている部下も見かけた。

けれど今では、ルリシヤさんを見下す者はいない。

ルリシヤさんが、幹部として相応しい人物であることは、明白だったからだ。

あのルレイアさんに負けず劣らずの実力もさることながら、自分の名前すら書けない者も多い中、非常に知識が豊富で、ルレイアさん並みに賢かった。

それだけでなく、色んな方面で非常に多才で、部下にも優しく、面倒見も良く、自分の手料理を部下に振る舞うこともあるそうな。

俺はルルシーさん直属の部下だから、ルリシヤさんと関わることはないはずなのに。

ルリシヤさんはそれすら気にせず、気さくに話しかけてきたり、嫁に渡すと良い、とお菓子をくれたこともしばしば。

少し話が逸れたが、要するに俺が言いたいのは。

あのルリシヤさんなら、多数の難しい言語を組み合わせて暗号を作り、敵に見つからないように俺達にメッセージを送るくらい、造作もないだろう、ということだ。

もしルリシヤさんが本当に、こうして俺達にメッセージを送ってきてくれたなら。

俺は、それをちゃんと受信して…アイズさんに託す必要がある。

正直、俺はこのメッセージが何を意味するのか分からない。

もしかしたら、俺達が疑心暗鬼になってるだけで、本当は何の意味もないただのイタ電である可能性も、大いにある。

もしそうだったとしたら、アイズさんに余計な手間と迷惑をかけることになりかねない。

俺達は今、確かに情報に飢えている。

だからと言って、あまりにも手当たり次第に情報を集めていたら…余計に真相から遠ざかってしまう。

故に、どの情報を拾い、どの情報を切り捨てるか、この取捨選択を誤ってはいけない。

それだけは、馬鹿な俺にも分かる。