The previous night of the world revolution4~I.D.~

もしこのとき、ルレイアが「あんなこと」になっていると知っていれば。

俺は、こんなに悠長にはしていなかっただろう。

ルリシヤの反対を押しきってでも、ルレイアのもとに駆けつけただろう。

でもこのとき、俺はまだ知らなかった。

知らないが故に、呑気にルリシヤとシェルドニア語の勉強をしていた。




「習得が早いな、ルルシー先輩。正直、もっとかかると思ってた」

「…まだ、全然喋れてないけどな」

褒められても、あまり嬉しくない。

ルレイアやルリシヤの語学力と比べたら…こんなの、全然喋れるうちに入らない。

簡単な挨拶が出来るようになった程度、だ。

得られる知識があるなら、手当たり次第何でも覚えたいくらいの気持ちでいるのに。

それでも、俺のポンコツな脳みそは、教えられたことの全てを覚えてはくれなかった。

ルリシヤは、初めて勉強することはそんなもんだ、と言うけれど。

新しい単語を一つ覚えれば覚えるほどに、ルレイアに近づくかと思うと。

覚えの悪い自分が、もどかしくて堪らなかった。

「…言語というものは、一朝一夕で覚えられるものではないからな」

「…そんな呑気なことをしている間に、ルレイアが…」

「そう焦るな、ルルシー先輩。気持ちは分かるが」

焦るなと言われても、焦らずにはいられない。

俺が見ていない場所で、どんな目に遭わされているかと思うと…。

衝動的に、身体の方が動いてしまいそうだ。

一刻も早く、ルレイアを助けに行ってやりたい。

「そう心配するな、ルルシー先輩。王が処刑されたなんてニュースは、まだ聞いてない。少なくともアシミムが目的を達成するまでは、ルレイア先輩は丁重に扱われるだろうよ」

「でも…」

「そういう意味では、ルレイア先輩は今、俺達より安全な場所にいると思うぞ」

「…それはそうだが」

俺達は、いつ追っ手が迫ってきてもおかしくない訳だからな。

今のところ、ヘールシュミット邸からは離れたところに居を構えているのだが…。

何処に追っ手が潜んでいてもおかしくはない。いざというときの為に、すぐに逃げられるよう準備はしているものの。

正直…俺はこの異国の地に、なかなか順応しきれずにいた。