The previous night of the world revolution4~I.D.~

助けてくれたのは、「彼」ではなかった。

アシミム・ヘールシュミットだった。

彼女は、まるで聖母のような優しい笑みを浮かべながら、俺を暗闇から引っ張り出してくれた。

彼女に手を引かれ、俺は真っ白な光に包まれた。

俺を傷つけるものは、何もなかった。

呪詛の声も、憎しみの眼差しも…綺麗さっぱり消えていた。

そこにあるのは、救いと、慈悲だけだった。

…同じだ。

助けてくれた。俺を地獄から救い出してくれる人が現れた。

この人は、俺の救世主だ。

いいや、違う。

これは本来あるべき未来ではない。

俺を救ってくれたのは、「彼」のはずだ。

それが正しい。

この人ではない。この人は、偽者。

「彼」に成り済まして俺を騙そうとする、詐欺師…。

「…本当に、そうかしら」

彼女は、優しく俺に手を差し伸べた。

いけないと分かっているのに、俺はその手を取った。

彼と同じ…温かさを感じた。

「あなたを助けたのはわたくし。他の誰かじゃない。あなたを暗闇から救い出したのは…わたくしですのよ」

「…あなた…が…?」

「そうですわ。見てご覧なさい。あなたを苦しめていたものは、全てわたくしが消し去りました」

周りを見る。

そこには、俺を傷つけるものは何もない。

「彼女」が…俺を助けてくれたから。

「わたくしがあなたの救世主。あなたを助けたのはわたくしですのよ」

「でも…。それは偽者だ…。だって俺を助けてくれたのは…」

「…助けてくれたのは、誰ですの?」

え?

「わたくし以外の、誰があなたを助けたんですの?」

「そ、れ…は…」

…思い、出せない。

大切なことのはずなのに。

絶対に忘れてはいけないことのはずなのに。

それなのに、思い出せなかった。

…俺を助けてくれたのは、この人じゃないか?

俺の中の誰かが、「この女は偽者だ」と叫んでいた。

でも、俺は。

再び眠りから覚めた俺は。

この人を、自分の救世主だと思った。

「…あなた、です」

俺は、羨望と尊敬の眼差しで彼女を見上げた。

「あなたが…俺を助けてくれた…」

「ふふ、そうですわ。それが正しいのです」

本当は、何が正しいのか、なんて…俺には分からない。

ただ、今この暗闇から俺を救い出してくれたのは、間違いなく彼女だった。