全く知らない、異国の地で。

逃亡者である俺達二人は、でたらめに逃げ惑った。

とにかく、あの家から遠く離れることが先決だった。

「…追っ手は来てるか?」

「いや…。来てるようには見えないな。元々…奴らの目的は、ルレイア先輩だけだったようだし」

「…」

ルレイア一人を手中に入れれば、それで良いってことか。

…何で…ルレイアなんだ。

俺が代わりになってやれるものなら、いくらでも代わってやったのに…。

「さてと…。ルルシー先輩、これからどうしよう?」

「…」

「態勢を立て直して、ルレイア先輩を助けに行くことは決定事項だが…。どうやってそれをするかな」

「…ルティス帝国大使館にでも、行ってみるか?」

「さぁ…。大使館が味方をしてくれるとは、とても思えないな」

…俺もそう思う。

俺達のやりそうなことなんて、アシミムも分かっているはずだ。

大使館に行っても、どうせアシミムの息がかかってるだろう。

むしろ、捕らえられて俺達だけルティス帝国に突き返されたら、ルレイアを助ける術はなくなってしまう。

「とにかく俺達の最優先事項は、ルティス帝国にいるアイズ先輩達と連絡を取ることだな」

「…そうだな」

俺がルレイアを置き去りにして逃げたなんて、とてもではないが言いたくない。

でも、言わない訳にはいかない。

アイズも、アリューシャも、シュノも…いつまでたっても連絡の一つも寄越さない俺達を、何と思っているのだろう。

「その為には、まず態勢を整えなくては」

「…態勢…」

「さしあたっては逃亡資金の確保だな。俺達は今、ろくに金も持っていない。異国から来た、ただのお尋ね者だ」

…おまけに、俺はシェルドニア語さえ分からない。

「逃亡資金の確保って…どうやるんだ?」

人でも襲うか?

シェルドニア人がどうなろうと知ったことではないから、引ったくりだろうが怪しい商売だろうが、何でもやってやるが。

「まずは、これを使う」

ルリシヤは、一本のナイフを取り出した。

「…何処から、そんなものを?」

持ってたか。お前。

「さっき警備兵からこっそり奪った」

…成程。

で、そのナイフで何をするんだ。

「…襲うのか」

「失礼だなルルシー先輩。俺はそんな乱暴なことはしないぞ」

あ、そう。

「じゃあどうするんだ?」

「売る」

…そういうことか。

「ナイフ一本でそこまで金になるかな」

「大して金にならなくても構わないよ。その金を元手にして、カジノで荒稼ぎする」

成程。お前はその手があるよな。

「カジノ…あるのか?」

「船の中にあって、国内にない訳がないだろう。アホみたいなレートで吹っ掛けて、巻き上げるだけ巻き上げる」

お前は何処に行っても、逞しく生きていけそうだな。

…そういうところは、ルレイアと同じだ。

「そうと決まれば、善は急げだ。ルルシー先輩、すぐに…」

「…なぁ、ルリシヤ」

「うん?」

「…さっき、怒鳴って悪かった」

ルリシヤが正しいことは、分かっていたのに。

自分の無力さを、ルリシヤに八つ当たりしてしまった。

「気にするな。俺も気にしてない」

「…そうか」

ルリシヤがいてくれて良かった。

彼がいなかったら…俺はとっくに、壊れてしまっていただろう。