どうやら、随分ややこしいことになってるようだな。

「…全部隊、退避。アリューシャも」

次期首領の幹部は、インカムに向かってそう言った。

…適切な判断だ。

オルタンスは、嘘をついてはいないだろう。

ガイドブックやらカチューシャまで用意している辺り、本当にルレイアとテーマパークに行くつもりで、貸し切り券をプレゼントしたのだろう。

でも、ルレイア達は、テーマパークではなく…シェルドニア王国の豪華客船に乗っている。

何故、こんなことが起きているのか?

オルタンスが嘘をついてないとすれば、考えられる可能性は一つ。

「…誰かがオルタンスの名を騙って、テーマパークのチケットと豪華客船のチケットをすり替えて、ルレイアに送りつけたんだ」

「…!」

そうでなければ、説明がつかない。

「俺の貸し切り券を、誰かがすり替えた…?それは極悪人だ。折角ルレイアとハムスターデートしようと準備したのに」

「お前、ちょっと黙ってろ」

そういう話じゃねぇから。今。

「とにかく、ルレイアは今、大海原で行方不明なんだな?」

「…そうだね」

大海原で…行方不明ね。

あのルレイアが、そう簡単にくたばるとはとても思えないが…。

「…あの、失礼」

ルーシッドが挙手して、敵幹部に向かって発言した。

「常識的に考えたら…船旅で連絡が取れなくなったとあれば…まず疑うのは、海での事故では?何故我々の陰謀を疑うんです?」

…まぁ正論ではあるな。

こいつらは、真っ先に「事件」を疑ってる。

「事故」ではなく。

「そして、もし事故なのだとしたら…ルレイア殿の生存は…」

「心配しなくても、ルレイアは生きてる。ルルシーもルリシヤも」

…何だって?

「生きてるけど、何らかの事情があって戻ってこられないだけだ」

「連絡が取れないんじゃなかったのか?何故生きてることが分かる?」

「それは教えられない。でも、生きてはいる。恐らくね」

「…」

…成程、信じよう。

『青薔薇連合会』の情報網を甘く見てはいけない。

こいつらは、何らかの手段を持って、ルレイア達の生存を確認しているのだ。

ただ、何処で何をしているのかが分からないだけで。

それで、真っ先に旅行券の送り主であるオルタンスのもとに、殴り込みに来た訳だ。

まぁ…的外れに終わったけどな。

「…オルタンス殿が、敵にふざけたものを送りつけていたことは、誠に嘆かわしいが」

ずっと黙っていたアストラエアが、重々しく口を開いた。

ふざけたものと言われ、オルタンスは何のことか、と言わんばかりにきょとんとしていた。

お前のことだよ、馬鹿。

「その件と、そちらの幹部が行方不明になった件は、関係ないということではないか。我々は殴られ損か?」

あぁ、そういえば。

問答無用で殴り込みに来たんだよな、こいつら。

「あぁ…。それは申し訳ない。壊したものの修理費や、怪我人の治療費については全て補償します」

「死者の命は、どう補償すると?」

「怪我人はいても、死者はいません。使用した拳銃の弾は、全て麻酔弾です」

…こいつら。

「我々もあなた方が犯人だと断定して殴り込みに来た訳じゃない。犯人だと断定出来るまでは、殺しは避けてますよ」

「…成程ね」

さすが、『青薔薇連合会』の次期首領。

ルレイアより、百倍は冷静だな。

ルレイアなら、疑わしい者は全て犯人とみなして、容赦なくぶったぎっていたことだろう。