そう言われてみれば、昨日の事故の時も今日も、演奏をしているこいつに文句を言う人は誰もいなかった。

それは、心が込もっていたからなのか…


反論する事が出来ず無言で立ち尽くす俺を余所に、再びギターの準備を始めた。

そして準備が整うと、ニコリとも笑わずキャップを脱いで俺に見せた。


「これはあの時、弟が被っていた帽子。

当日、偶然にも学校が半休だった為に、あの事故に巻き込まれてしまった。もっと生きたかった筈なのに…

残された人達の悲しみは、どこまでも深く涙は枯れる事はない。だから、私は歌うの。

私には歌う事でしか、皆を暗闇から救う事は出来ないから…」


キャップのひさしの裏には、ベッタリと血の手形がついていた。


「特別に、貴方の為だけに歌ってあげるよ」

そう言うと、ギターの演奏が始まった――


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