壊れたガードレールを飛び越え、俺は一気に道路を横断した。そして、ストリートミュージシャンの前に立った。

ストリートミュージシャンは演奏を止め、スッと俺の顔を見上げた――


「ああ、昨日の…」

ああ昨日の、だと?
俺は胸ぐらを掴んで殴り飛ばしてやろうかという程の勢いで、そいつに文句を言った。

「お前な、今のこの状況が分かってないのか?

見てみろよ!!
大勢の人達が怪我をして、死んだ…死んだ人だっているんだ…
こんな場所で、呑気に演奏なんかしてんじゃねえよ!!」


すると、予想もしなかった言葉が返ってきた。

「呑気なんかじゃないよ…
呑気でなんかいられる筈がない。

私は最初の列車事故で犠牲になった弟の為に、大切な人を失った人達の為に歌っている。

亡くなった人達が安らかに眠れる様に、残された人達に勇気を与えられる様に、心を込めて歌ってるのよ!!」


キャップのひさしの下から少しだけ見える瞳が、悲しいく強い光を放ちながら俺を見据えた。


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