急にその客が、私の手首をガッと掴んだのだ。

「バレなきゃ大丈夫だって」


「ご主人様、離してください」


そう言うと、私の手首を握っていた力はますます強くなった。


「ちょっと、ほんとに離してください……」


そのときの私はきっと、どうしたらいいかわからなくて、涙目になっていた。

もう誰か助けてと願うように目を瞑ったときだった。


「出禁になりますよ?」

ねねさんがその客の手首をさらに掴んでいたのだ。


「いや、別に、俺は、なにも」

しどろもどろする客に向かって、ねねさんは笑顔で言った。

「店長、呼んできますね」


しばらくして、ねねさんが呼んだ店長が来た。

「それではお客様、規則通りの対応を取らせていただきます。まず、この店への出入り禁止と──、」

店長の説明が始まると、ねねさんが私をスタッフルームに連れて行ってくれた。