とうめいな水

「け、見学ですかっ!?」
 と安堂。
「いいですか…?」
 女子は恐る恐る扉を全開にし、こちらへ入ってくる。
「あ、もうどうぞどうぞ!気になることがあればなんなりと!」
「いらっしゃい」
 安堂は両手を広げて大きな声で言った。中松は立ち上がって扉を閉める。
「ちょ、なにやってんすか部長」
「え」
 くつろいでいたら安堂に釘を刺された。
「案内してやってくださいよ」
 僕は、嫌々女子の方を見たが、彼女の髪の毛は綺麗な線を描くようにさらさらで暗く黒かった。瞳は透明な水と星を宿す夜の色。唇は今朝見た桜と同じピンク色。彼女は美しかった。美しいと思った。
 僕は思わず目をそらし、何もない床を見ながら立ち上がった。
「文芸部の部長っす」
 安堂が紹介してくれた。
「部長の双葉です」
「は、じめまして…」
「一年生?」
「あ、はいっ」
「じゃあ見学に来た感じ、だよね」
「そう、です」
 女子の返事は猫みたいにおとなしかった。
「なんもないけど、本とか読む?」
「え、えっと…」
 女子が困り出してしまった。いや、そりゃ困るよね、俺だって困る。だって部室には本や紙など、それ以外何もないから。
「とりあえず座ってお菓子でも食べない?」
 中松が助け舟を出してくれた。
「あ、えっと」
「はい」
 中松は空いている椅子を引いた。
 中松は気が利く。同性だし中松の方が適任じゃないか、と思っていると、相変わらず気が利かない僕は、中松に睨まれた。僕の信用度のなさが改めてわかった。