とうめいな水


「校歌斉唱」
 教頭先生の声でピアノが流れる。始業式。体育館。
 僕ら生徒は規則正しく整列し、校歌を歌う。か細く綺麗な女子の歌声。何食わぬ顔の口パクのやつも紛れている。
 始業式が終わり、とうとう始まる青い新入生への部活紹介の会。体育館のステージに部員が並んで、自分の部活に来てもらえるように大きな声で演説する。
 僕は文芸部の演説を任されていた。

「頼んます!」
 二日前、同じ文芸部の二年男子の安堂(あんどう)が大きな声で僕を説得していた。
「嫌です」
「宙先輩しかいないんです!」
「安堂がやればいいじゃん、大きい声出てるし」
「だって必然と部長になるんですよ!先輩!」
「それは仕方ないよ、三年僕しかいないし」
「部長演説必須事項です!」
「……」
「決定事項です!」
 安堂は腰を屈めてファイトのガッツポーズをする。
 僕は渋々、渋々それを受け入れた。

「サッカー部です!毎日顧問の竹下(たけした)先生、マネージャーたちと切磋琢磨しながら頑張っています!」
「美術部です!絵が好きな方はもちろん、見る専門の方でも大歓迎です!」
「演劇部です!今から発声練習を一部お見せします!」
「弓道部です!毎日先輩方から厳しい指導を受けながらも去年は全国大会に出場することができました!」
 華々しい挨拶と大きな功績を語る部活生たち。

 壇上に立つ地味な僕。
「えー…文芸部です、今、部員三人で活動しています。小説が好きな方、絵本が好きな方、国語が好きな方、どんな方でも大歓迎です…」
 小さな声でしーんとしてしまう体育館。
 大きな声でやりなさい!と言わんばかりに口をぱくぱくさせている安堂。それを見守る文芸部のもうひとりの二年の女子部員の中松(なかまつ)。
 廃部寸前の文芸部。なんとか部員を入れたいという意思はあるものの、僕にやる気はない。
 元々一人で小説を読むのが好きだった僕は、なんとなくで文芸部に入ったため、みんなほどお熱じゃないのである。加えて、文芸部はコンクールの受賞歴もなく、部員は趣味の範疇で書き物をしたりしなかったりだ。静かにひっそりと生息する部活なのである。