とうめいな水

 
 朝だ。カーテンからこぼれる朝日があたたかくて、寝坊したいくらいなのだが、ちくしょう。起きなければ。
大体、毎日同じことを思う。
 学校が嫌いな訳ではない。でも好きだと思うこともあまり見当たらない。
 頭は悪くないはずだが、勉強は得意ではない。彼女はいない。できない。
 学校へ行きたいと思う動機が見つからない。悪循環。でも、部活はそこそこ好きだ。それで充分。
 そんなことを思い巡らせて、五分くらい布団の中でうだうだしたけれど、起き上がった。
 パジャマから制服に着替えて、スクールバッグを持って階段を降りる。
 見えるのは三人家族にはちょっと大きすぎる食卓テーブル、白飯、味噌汁、鮭、新聞で顔が隠れて見えない父、生き生きと台所とテーブルを往復する母。
「おはよう」
「あ、宙(そら)、おはよう」
「おはよう、宙」
 おはようラッシュ。
「……」
「……」
 その後は自分の仕事に戻る父と母。
 無駄なお喋りはあまりしない夫婦だ。それでいいと思う。
 黙って父の向かいの席に座る。
 今日も今日が始まる。


 学校へ向かうため、お弁当が入った小袋をかごに入れ、自転車を走らせる。
 桜吹雪。花びらが綺麗に青い空に映える。馳せてくピンク色。新学期だ。
 四月。新しい出会いに期待に胸を膨らませたり、憂鬱で布団に沈む僕ら。物事に一喜一憂する年頃なのだ。
 僕はどちらかと言うと少し憂鬱。なぜかと言うと部活の新人勧誘に熱が上がる季節だから。誰もがうちは花形部活だと言うかのような熱烈なチラシの配布っぷり。廃部を免れたい小さな部活もある。僕が所属する文芸部もそのひとつだった。
「おはよー」
「おはようー!」
 校内に生徒が吸い込まれていく。キラキラした挨拶が転がっていく。
 僕は自転車を駐輪場に止め、キラキラの中へ入って行った。