御曹司は優しい 音色に溶かされる

恵子は二年前翔太を亡くしたことで、
抜け殻のようになっていた。

見かねた千隼がまた第二秘書として
働かないかと誘ったのだ。

翔太を近くで支えていた第一秘書の野中
と第二秘書の恵子がサポートにつくことで
千隼の仕事は俄然早くいい方向に
回りだした。

そして恵子も自分が会社で必要とされている
事に自信を回復していって、生きる希望を
見出した。

流石翔太が認めて惚れた女だ。

彼女はとても優秀だった。

お陰で千隼が中心になって進めた新しい
プロジェクトもスムーズに軌道に乗り
運営されている。

成果も十分に上がっている。

業績も右肩上がりで、千隼の役員の信頼も
厚い来年の春には社長に就任することも
決まっている。

「副社長どうしたんですか?
ため息ついているところ初めて
見ましたよ。
何か問題が?」

と聞いてきた恵子に

「ゆりえがロスのアナハイムに
マンションを借りた。
映画のメインテーマの作曲を
頼まれたらしい。
さっき健司から報告があった」

恵子は二人の事情を知っている。

少なからず自分にも責任があると
思っているので、ゆりえに会えたなら
誠心誠意事情を説明してお詫びを
しなければと思っているようだ。

「あら、それは大きなため息が出るのも
仕方がないですね。
千隼さん、もうゆりえさんに会って
しっかり話をしたらどうですか?
遠くから見守っているだけでは、進展が
ないでしょう。
この二年間ほんとに千隼さんらしく
ありませんでしたよね。
決断も行動も素早いあなたらしくなくて、
翔太さんが居たら叱られてましたよ。
しっかりしろって…」

そういって頼んででいた書類だけ置いて
恵子は部屋を出て行った。