御曹司は優しい 音色に溶かされる

控室に下がるゆりえを見ながらユウジに、
ゆりえに変な男が寄り付かないように
気を付けてくれと、半ば命令口調で言うと、
ユウジは楽しそうに笑って

「千隼さんも本気になれる相手に
出会えたんですね。」

と言った。

でも、彼女を傷つけたら千隼さんでも
許しませんよと、反対にくぎを刺された。

ここのウエイターや黒服もみんな彼女を
可愛がっているらしい。

帰りはタクシーチケットが出るので、
心配はないが彼女の担当の日にいつも
ここにいるわけではないので、千隼は
焦る気持ちをどうしようもなかった。

一目惚れなんてどこの馬鹿がするんだと
思っていた、まさか自分自身がその馬鹿
になるとは…

自分が女を好きになるなんて思っても
いなかった。

どちらかというと女嫌いだ。

西條という名前と地位、他の男より
目立つこの容姿に引かれて寄って来る
女達にうんざりしている。

でも、ゆりえはそんな女達とは全然違う。

初心で純粋で真っすぐで、ちょっと話すと
すぐに頬が赤く染まる。

ゆりえの弾くピアノの優しい音色に、
心の中に溜まった澱が溶かされて
いくようだった。

ゆりえの最後のステージの終わる少し前
にはチルアウトを後にした。

終わりまでいてまた付きまとうのも
カッコ悪いし、自分なら嫌だと思うから
後ろ髪を引かれつつゆりえの弾くピアノの
音色に癒されながら部屋に向かった。