御曹司は優しい 音色に溶かされる

「何言ってんの。
あんたの事なんか信用できないわよ。
お母さん塩持ってきて塩」

早苗は玄関に向かって大声で母親に
要求している。

母親は、何かを察したのだろう塩を
袋ごと持ってきて、二人で千隼に
向かって塩を投げつけてくる。

そこに裁判官の父親が出てきて

「何を騒いでいるんだ。みっともない」

「ゆりえの敵討ちよ。
ゆりえを傷つけて泣かせた悪い奴を
退治してるのよ。
ゆりえはずっと何カ月も帰ってこない
あんたを待ち続けたんだよ。
毎晩ちゃんと夕食を用意して、どんな
気持ちで夕食を作っていたか、
考えると泣けてくる。
土日はあんたがいつ帰ってきてもいいように
一歩も外に出ずにマンションで
待っていたんだ。
あんたのことは絶対に許さないからね」

そう早苗が言うと、西本裁判官は

「そうかゆりちゃんの敵討ちだな。
じゃあ、私も塩をまくとしようか。
そこの人どかないと塩まみれになるよ」

と言いながら一番大きな手で塩を
つかむと千隼の顔をめがけてバシッと
塩を投げつけた。

ゆりえはこの家族に愛されているんだなと、
千隼はうれしくなった。

全身に塩を浴びながら西本家の家族に
感謝する千隼だった。

彼らがいてくれたならゆりえは大丈夫だ。

きっと誤解を解いて俺の胸にまた
帰ってくれるように諦めずにいようと決めた

西本家の三人は塩がなくなったらしい。

家の中に入っていった。

塩を振るい落としながら千隼は車に戻った。

やはりまだゆりえは帰っていなかった。

調査会社の報告を待つしかないと千隼は
決心してマンションに向かった。

その五日後 調査会社から報告が来た。

ゆりえはもう日本にはいなかった。

コンクール金賞の副賞でボストンの有名な
音楽大学の専門学校に二年間の留学を決めて
一週間前に日本を発っていた。

千隼は調査会社から送られてきた
コンクールのゆりえの演奏のビデオを何度も
見て、そのたびに後悔とゆりえに対して
申し訳ない思いに苛まれながら、演奏を
聴いて泣かずにいられなかった。

調査会社にボストンまで行ってもらい
大学でのゆりえの環境と現状を追加で調査
するように依頼した。