御曹司は優しい 音色に溶かされる

千隼は兄翔太の死の原因に
向き合っていた。

警察は翔太は自殺だと断定したが、
千隼は納得していなかった。

翔太はその夜チルアウトのカウンターに
座って珍しく一人で無茶な飲み方をして
いたらしくユウジも心配して何度も
窘めたらしいが何かに取り憑かれたように、
ただ強いブランデーを、何杯も煽っていたと
聞いていた。

翔太がケイコと何度もつぶやくように呼んで
テーブルに突っ伏していた。

そのあと、翔太の携帯にメールが来たらしく、
それを待っていたように食い入るように
見つめてユウジに冷たい水を一杯頼み
それを飲み干すと、慌てて出て行ったらしい

千隼は、会社の引継ぎがひと段落したら、
翔太の周りのケイコを探し出そうと
思っていた。

少し時間がかかってしまったが、まずは
そこにヒントがあるように思ったのだ。

もしも、ケイコという女に裏切られて
自暴自棄になった果ての事故なら千隼は
その女が許せない。

自分に惚れさせて同じように裏切って
捨ててやる。

とにかくケイコを探さなければならない。

その時の千隼にはゆりえを思いやる気持ちが
働いていなかった。

ただ自分の大好きな兄で自慢の兄で頼りに
なる存在だった翔太の死を受け入れられず
現実に抗っていたのだ。

そして、ケイコという存在を探すという
使命感に夢中になっていた。