御曹司は優しい 音色に溶かされる

千隼に愛されていたことはゆりえの実感
として間違いないものだった。

正直に話してくれていたらこんなに
傷つかなかったと思う。

千隼との短いけれど充実して幸せだった
日々は本物だった。

それは、ゆりえにとってとても大切な宝物だ。

でも、今日千隼に対する気持ちも宝物の様な
思い出も、すべて心の中の部屋に閉じ込めて
鍵をかけてしまおう。

ボストンで新しい自分を見つけようと
ゆりえは涙を振り払って前を向いて
進もうと決心した。

弁護士には留守の間の実家の管理も
頼んできた。

掃除などのために電気、水道は
そのままにしておく。

二ヶ月に一回程度の掃除と風通しなどの
留守宅管理というシステムがあるらしい。

それをお願いしてもらってピアノの調律も
一年に二回程度来てもらう必要がある。

全て手配してくれるという先生に
甘えてしまった。

これで安心してボストンに旅立てる。

次の日からゆりえはホテル住まいをしている

千隼や西條からの接触や連絡を避けるためだ

成田空港の近くのホテルに偽名で
滞在することにした。

出発までの五日間おとなしく部屋でテレビを
見たり足りないものの買い出しに行ったり
して過ごした。

早苗とも一日一緒に過ごして別れを惜しんだ

もうこれで何も思い残すことはないと言って
早苗に見送られてゆりえは機上の人となった

最低二年は帰らないと決めている。

コンクールの事務局に今年の九月からの入学
を希望したので直ぐに発たなければならない

時間に追われるようだけれど今のゆりえには
ありがたい事だった。

早く日本から千隼から離れたかった。