御曹司は優しい 音色に溶かされる

祖父母からもらった大切なピアノをそのまま
マンションに残してボストンに行くわけには
いかない。

それから携帯を新しくして、コンクールの
事務局や早苗には新しくなった携帯の番号を
知らせた。

千隼の母親にはとても可愛がって
もらったのに、不義理をして申し訳ないが、
連絡することはできなかった。

パスポートは狩谷ゆりえのままになって
いたので助かった。

これからは狩谷ゆりえに戻ることになる
のだから、結婚して千隼が作ってくれた
西條ゆりえ名義の通帳やキャシュカードや
クレジットカードもマンションの鍵と一緒に
置いてきた。

これから顧問弁護士のところに相談に
行こうと思っている。

早苗の勤めているところでもあるので
早苗とも話ができればいいなあと
思っている。

三時に面会の予約が取れた。

昼ご飯を作るにも冷蔵庫はすっからかんに
なっているのでスーパーに行かなければ
ならない。

ゆりえは急いでスーパーに行って必要な物
だけを買ってきて、昼食を作った。

こんな時にスーパーに行って昼食を作ってと
冷静に行動している自分が信じられない。

まだ千隼と離婚を決意して彼から離れる
という現実と、ボストンに行くと言う未来が
信じられないのかもしれない。

なんて自分の心情を冷静に分析しているのが
自分じゃない気がしてゆりえは不思議な
気持になっていた。

いつかきっとこの反動が来るのだろうと
その衝撃に備えなければと、これまた冷静に
心を防御していた。