御曹司は優しい 音色に溶かされる

雑念を振り払って最後にタイタニックの
テーマを祖父母の買ってくれたグランド
ピアノで心を込めて弾いた。

千隼への愛と別れとこれからの自分の
人生へのエールを自分の指に、ピアノの
音色に込めた。

千隼が玄関の外でドアをそっと薄めに開けて
ゆりえ演奏を聴いているなんて
知る由もなかった。

千隼は大好きな愛してやまない妻の弾く
ピアノの音色に心を震わせて、流れる涙を
ぬぐおうともせずに感動で動くことも
できずにいた。

ゆりえを苦しめた事はすべてが済めば必ず
自分の愛情で贖うと決めている。

もう少しだけ待って居て欲しいと
心から願う千隼だった。

千隼は結局ゆりえに会う事ができなかった。

昨夜のゆりえの悲しみをたたえた潤んだ瞳が
目に焼き付いて、ゆりえに向き合う勇気が
なかった。


そして、ゆりえはコンクルの会場で一心に
ピアノを弾いていた。

演奏を終えると、場内が一瞬静まり返った。

その後、ブラボーの声が審査員から上がった。

大きな拍手が沸き起こる。

涙を流している人もいてゆりえはやり切った
達成感を感じていた。

賞などどうでもよかった。

この曲に込めた千隼への想い、自分の決意を
ピアノの音色に乗せられたことが
心底うれしかった。

そしてゆりえは金賞を取った。

これでボストンへの留学が叶う。

色々な手続きや写真撮影インタビューなどが
あったが、名前は狩谷ゆりえで登録
していたので西條の名前は出ないはずだ。

全てが済むともう六時になっていた。