御曹司は優しい 音色に溶かされる

「ごめん。怒ってごめん。泣かないで、
ゆりちゃんに泣かれるとどうしていいか
わからないよ」

千隼はゆりえの前に膝立ちになって、
ふんわりと優しく抱きしめてくれた。

ゆりえは千隼のコロンの匂いを胸いっぱいに
吸い込んだ。

エッジのきいた大人っぽいウッデイな香りが
千隼らしい。

いつもステージの終わりに横に座ると
かすかに香る千隼の匂いが好きだ。

千隼は指でゆりえの涙をぬぐい頬に口づけた。

「ゆりちゃん今日はこれで帰るよ。
これ以上いたら自分が抑えられなくなる。
明日は土曜日だから休みだろ?
明日どこかに出掛けよう。
そしてきちんと話をしよう。
ゆりちゃんも俺の事好きでいてくれると
思っていいんだね」

ゆりえはうんうんと首を縦に振るだけで言葉が
出てこない。

千隼はゆりえが落ち着くまでずっとゆりえを
抱きしめて背中を優しくさすってくれた。

やっと泣き止んだゆりえは、今度は
恥ずかしくて千隼の胸から顔を上げられない。

「千隼さん、ごめんなさい。
こんなに泣いて恥ずかしい。
千隼さんの素敵なスーツを汚して
しまいました」

「いいんだ。俺が意地悪言ったからだ。
俺こそごめんね」

そう言って千隼はゆりえを自分の胸から離して
顔を覗き込んだ。

真っ赤になったまだ潤んだ目で千隼を見つめる
ゆりえの瞳に魅入られるように、
千隼はゆりえから目が離せなかった。

ゆりえを辛そうに離すとその目に熱をたぎらせて
ゆりえを見つめると千隼は立ちあがった。

明日十一時すぎに迎えに来ると言って、
戸締りをしっかり確認してから帰っていった。