御曹司は優しい 音色に溶かされる

そう言ってゆりえは玄関のかぎを開けると
千隼を家の中に招き入れた。

こんな時間に女一人の家に男性を入れる
なんてはしたないことだとは思うが、
千隼に実際に見てもらったほうが納得して
もらえるだろうとゆりえは腹をくくったのだ。

千隼は少し驚いた顔をしたが、ゆりえについて
家の中に入ってきた。

まずリビングに案内した。

リビングの半分はグランドピアノが
占めている。

ダイニングテーブルは二脚だけいすが置いて
ある丸テーブルでここで一人で
食事をしている。

たまに早苗が遊びに来ても十分事足りる。

グランドピアノを置くためにリビングと
ダイニングの仕切りを取って一つの空間に
リフォームしたのだ。

三人掛けのソファーは祖父母が生きていた
時のままだ。

そこに千隼を案内して座ってもらった。

ゆりえは冷たいお茶を出して、
自分も千隼の前に腰かけた。

そして、自分の生い立ちや天涯孤独の身の上を
話して聞かせた。

こんなことを話したのは千隼が初めてだ。

とにかく祖父母が亡くなってからは毎日
生きるのが精一杯だった。