御曹司は優しい 音色に溶かされる

ユウジはグラスをカウンターに置きながら

「千隼さん、今日はなんだかご機嫌悪い
ですね。お疲れモードですか？」

と声をかけてきた。

ジャケットを脱いでネクタイもとって
ジントニックを、グラスに半分くらい
煽るように飲んだ。

「ああ、最低の日だった。ここで少し
リラックスして今日は泊っていくつもりだ」

「でもあまりピッチを上げすぎないで
下さいよ」

そういっておつまみや腹にたまる料理を
出してくれる。

何も言わなくても俺の好きなものを知って
くれている。

ここはやはり居心地がいい。

やっと人心地ついたとき ピアノの演奏が
始まった。

意識してはいないが耳に心地よい音色だ。

ゆったりとした旋律が心にしみこんでくる
ようで気持ちが和らぐ。

会話の邪魔をしない押しつけがましくない
音量と優しい音色を奏でるピアニストに
興味がわいた。

ピアノの方を振り返るとまだ大学生くらい
だろう若くて清純そうなお嬢様の横顔に
はっとする。

背筋をピンと伸ばし伏し目がちにピアノの
鍵盤や譜面に視線を向けている。

長いまつげが頬に影を落としすっきりとした
顎のラインが美しい。

正面から顔を拝みたくなる。