御曹司は優しい 音色に溶かされる

千隼に対しても、はいそうですかと簡単には
関係を戻すことはできないけれど、
お互い相手の嫌がることはしない方が
いいだろうと思っている。

ゆりえはこの二年間ピアノや作曲の勉強に
没頭した。

遊びまわるでもなく久美子やジョシュや健司
とセッションしたりライブを開いたり
音楽浸けの毎日だった。

それでも、千隼のこと忘れることは
できなかったが、少しづつ少しづつ千隼の事
を考える時間は少なくなっていったのだ。

心に閉じ込めて鍵をかけたつもりでも、
千隼の夢を見た日は会いたくて泣きながら
目を覚ます事もあった。

そんな日々も回数は減ってきていたのに、
今こうして千隼を身近に感じて千隼の香りに
包まれると、突き放すことはできそうに
なかった。

それでも、また千隼に冷たくあしらわれて
悲しい思いをするのは今度こそ耐えられない
とも思う。

きっと今度こそゆりえは壊れてしまうだろう

二年前はボストンに行くと言う
逃げ道があった。

そしてタイタニックのテーマという
ゆりえ自身の唯一の曲にも出会えた。

だからあの辛さを絶望を乗り越えられたのだ

千隼とのことは堂々巡りになる自身の思考に
ゆりえはため息をつくしかなかった。