御曹司は優しい 音色に溶かされる

今夜も最終ステージが終わった時、ユウジが
何を飲むと聞いてくれたが、ゆりえはすぐに
帰るのでいらないと言って断った。

本当はステージの後は喉が渇くのだ。

緊張しているのもあるのだろう。

毎回ペットボトルの水を飲み干すくらいだ。

普通以下の境遇のゆりえにとって
西條グル―プの御曹司なんてはるか
雲の上の存在だ。

一体どうしろというのだろうか?

大きなため息をついて名刺をリビングの
テーブルに置いた。

名刺の裏に多分千隼の個人の携帯の番号を
名刺を渡してくれる時に、ペンでさらっと
書いていた。

電話して来いという事なのだろうか?

アーもうっ、考えてもわからない。

明日にでも親友の早苗に電話して話を
聞いてもらおうと決めた。

そして、思考を放棄してゆりえはソファーに
ひっくり返って、天井を見上げた。

そして天井のクロスの継ぎ目が剝がれかけて
いるところを見つけて今日何度目かの
大きなため息をついた。