その夜以降、彼が私にちょっかいをかけてくることはなくなった。儀式が行われているときも、それ以外の時間も、会話らしい会話すら交わしていない。


(話しているうちに気づくこともある、か)


 つまりはそういうことなのだろう。
 私と彼とは相容れない。もしもを考えるだけ時間の無駄で、お互いのためにならない、と。


「クラウディア様、今の、ご覧になっていただけましたか?」

「ええ、見ていたわ」


 ナターシャ様はメキメキと頭角を表しはじめていた。元々実力のある女性だし、自信がついたのが大きいのだと思う。最近では、ユリウス様にしょっちゅう声をかけられているし、妃候補の筆頭だ。


 このままいけばきっと、ユリウス様の妃はナターシャ様に決まるだろう――そう考えたそのとき、胸がチクリと痛んだ。
 二人が寄り添い合う姿を、ともに国を治める未来を想像すると、なんだか息が苦しくなってしまう。


『ねえ……もしも俺が王太子じゃなかったら、クラウディアは結婚を受け入れてくれた?』


 いつかの、ユリウス様のセリフが頭のなかに木霊する。
 そんなの、考えても意味のないことなのに。

 だって、ユリウス様は王太子だもの。――私の人生は彼の妃候補を外れた先にしかはじまらないんだもの。
 母の思いどおりになんてなりたくない。絶対にゴメンだ。


(けれど……)


 ナターシャ様と笑い合うユリウス様に、私はくるりと背を向けた。