「わたくしはユリウス様の妃になりたいです」


 とそのとき、背後から愛らしい声音が聞こえてきた。ユリウス様と一緒になって振り返れば、そこにはヴァイオリンを抱えたナターシャ様がいた。


「他の候補者たちも、みんなそう思って頑張ってます」

「うん……そうですよね。私が間違ってるってちゃんとわかってます」


 だからこそ、私は辞退したかったのに……。これじゃ真剣にやってる他の人に対して失礼だ。


「だから……」

「だから? 私に辞退してほしいって?」


 尋ねつつ、私は思わずハッとする。

 もしかしたら、他の候補者たちからの抗議の声が増えれば、必然的に私は辞退に追い込まれるのではなかろうか? ユリウス様がどんなに『辞退を認めない』と言ったところで、令嬢たちの声をまるっと無視はできないはずだ。


(さぁ……!)


 遠慮などせず、ガッツリと私を非難してほしい。やる気のない私じゃ話にならないと、判定員たちの耳にも届くような声で。


「クラウディア様、わたくしにヴァイオリンを教えていただけませんか?」

「…………え?」


 しかし、ナターシャ様が口にしたのはあまりにも思いがけないことだった。